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郷田三郎(G3)
郷田三郎(G3)
novelistID. 29622
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きよしこの夜

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<きよしこの夜>

 クリスマスなんてキライだ。
 世間じゃ十二月に入った瞬間にあちこちでイルミネーションが煌き、まるで世紀の大イベントでも始まるかのような勢いになる。
 あたしの職場でも若いコ達は何やら何が欲しいだの、何処に行くだのと、その計画に余念が無い。
 でも、あたしはと言うと、今日が二十四日の夜だというのに会社で残業。もっとも仕事が無くても何の予定も有りはしないのだけど……。
 学生時代の友達は半数が結婚し、残りの半分も楽しい予定があるのだろう。あたしを誘おうっていう友情に熱いヤツは一人もいなかった。
 会社の同僚達はあたしの仕事が忙しいのを知ってか、クリスマスパーティにも呼ばれはしなかった。
 でも結局こうして仕事をしているのだから、予定が無くて良かったのだろう。
 二年前、同期で入社した男の子が会社を突然辞めた時、内勤だったあたしも突然外回りの仕事に換えられてしまった。
 内勤の女の子の中には羨ましがるコもいたけど、実際は目の回るような忙しさで、付き合っていたカレとも半年でダメになってしまったのだ。
 おかげでクリスマス・イブは二年連続で会社で迎える事になってしまった……。

「先輩、あとどのくらい掛かりそうです?」
 コーハイの三田君が声を掛けてきた。
 三田十蔵君は今年の新入社員だ。と言っても短大を出て六年目のあたしより一つ若いだけなので、人生をちょっと遠回りしてきたヒトなのかもしれない。
 でもあれでなかなか仕事は出来るし、運動神経の良さそうな見てくれも結構イケテいる。
 そして困った事に性格も良いのだ。
「え、あたし?えぇと、たぶん二時間は掛からないと思う。でも三田君は終わったんなら上がっても良いよ。クリスマスなんだし。こっちはちゃんと打ち合わせどおりに作るから」
 あたしは椅子ごと隣の三田君の方を向けた姿勢を再び作りかけの資料に戻した。
「いえ、オレもあと一時間ちょっとは掛かりそうです。それより先輩は良いんですか?こんな日に仕事だなんて」
 言いにくい事がさっぱり言えるのも彼の良いところだ。ところで三田君は”こんな日”の意味はわかってるんだろうか?
「仕事だって解かってたしね。それより、その先輩って言うの止めて欲しいんだけど。一コしか違わないんだし。なんか、歳取った気になっちゃうのよ。ね」
(別に名前にチャン付けで呼んで欲しいって訳じゃないけどね。)
「そう言えば先輩の名前”聖子”って、もしかして今日が誕生日ですか?」
 三田君は自分の新発見に目を輝かせたみたいだ。
「歓迎会で課長が『クリスマス生まれの聖子ちゃん』って紹介したじゃない?」言いながら、あたしは少々凹んだ。
「すみません、あの時はかなり緊張してて、あまり憶えてないんですよ」
 そして三田君は済まなそうな顔をした。
「じゃあ、ちょっと買出ししてきて良いですか?ハラ減っちゃって。先輩にも何か買って来ましょうか?」
「そう?じゃあ何かプレゼントでも買ってもらおうかな。ボーナスも出た事だし」
 言ってしまってから後悔した。
「ははは、マジですかぁ? まいったなー。 とりあえず何か適当に買ってきますね」
 三田君は逃げるように出て行った。
 一人残されたあたしは仕事を続けながら、さっきの会話を何度も反芻してみて、又少し凹んだ……

 三田君はしばらく帰って来なかった。会社の目の前にコンビニが在るのにもう三十分以上になる。マンガの立ち読みでもしているのだろうか?
 あたしは、食事はともかく、そろそろ三田君の仕事の方が気になりだした。
「すみません!遅くなって」
 三田君が部屋に駆け込んだ来た。息も弾んでいる。どうしたのだろう?
「いやぁコレを探すのに駅まで行って来ちゃいましたよ」
 と、三田君があたしの机に置いたのは、駅前の某有名洋菓子店の箱だった。
 駅までは歩いて片道十五分は掛かるのだ。
 三田君はその箱を開けて「ほらこの丸いショートケーキがね、それっぽいでしょ?」と笑った。
 箱を覗くとその丸くて小さいケーキが二個入っていた。
 あたしが「これを買いに行ってたの?」と聞くと。
 三田君は返事の代わりに色違いのローソクを三本、片方のケーキに立てた。
 「えぇと、白いのが二十で、赤いのが五、緑が一です。六で良いんですよね?ひとつ上だって言ってたし」
 不覚にもあたしの頬に涙がこぼれた。
「うん、六で良いよ。ありがとう、三田君」
「あー、時間食っちゃったから、仕事が終わるの同じくらいですかね? 先輩、コレ終わったら飲みに行きましょうよ。やっぱり誕生パーティはちゃんとやっておかないとマズイですからね」
 何故か真顔で言う三田君がとても可笑しく感じた。
 実を言えば誕生パーティという言葉がすごく新鮮だったのだ。
 家族で迎えたクリスマスではいつも誕生日の方が大きな顔をしていたモノだったのだけど、いつの頃からは誕生日はついでになり、この二年は少し恨めしくも思っていた。

「――え、あたしは良いけど、ホントは予定があるんじゃないの?」
 あたしは三田君は当然予定があると思ってたし、仕事が終われば風のように去って行くのだと思ってたので、マジメに心配して訊いてみた。
「だって今日は聖子と書いてキヨシコの夜ですよ。三田(サンタ)とは相性バッチリじゃないですか」
 三田君は寒いオヤジギャグに『決まったナ』と言わんばかりの笑顔を見せた。
 あたしは「ばーか」と言って席を立った。
「お茶でも淹れて来るね」
 あたしは給湯室に向かいながらハンカチを握り締めていた。


           おわり

2003.12.14
作品名:きよしこの夜 作家名:郷田三郎(G3)