小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

だって苦しいの

INDEX|1ページ/1ページ|

 
 あんたといると苦しいのよ。
 嘘ウソやめてよ、冗談でしょ? もう終わったんだから、ね? 終わったんでしょう、私達。

「お前ってカップラーメンみたいだな、すげーインスタントだよ」なんてあんたが言うから、私達は終わったのよ。
 そのインスタントな女に愛してるだなんて言い続けてきたのはどこのどいつよ? それとも何? お前の体は愛してたぜ! とかいつの時代よっていうようなセリフでも付け加えたいワケ?

 何度でも言うわ。
 あんたといると苦しいのよ。

 道を歩いてたら知らないオッサンに「お姉ちゃん、セックス好きでしょ?」って言われて、全然興味もないオッサンだったけど、むしろ気持ち悪いくらいのオッサンだったけど、そう見えたならそれでいいわって思ったのよ。だからヤった。
 そしたらまだ友達だったあんたはもっと自分を大切にしろって言ったわね。だから私、大切にしたのよ。タダで体を預けるなんて、そんな事はしちゃいけないんだなって。だからデリヘル嬢になったんじゃない。
 それを知ったあんたは毎日毎日私を買ってるわけじゃない。今日みたいに。見てよ、これ。ヴィトンのマンハッタン。この中に何が入ってると思う? 違うわよ、バカ。今まであんたから貰ったお金全部よ全部。こんなにいっぱいになるほどアンタは私を拘束したのよ。自分はシマムラの服なんか着ちゃってさ。ダサいったらないわよ、ソレ。

 それで何? 今日のあんたはシャワーも浴びずに、キスすらせずに言うに事欠いてカップラーメン? インスタント? なんなのそれ。ていうかそれの何がいけないの? 別に快楽が欲しいわけじゃないわ。温もりなんかもっといらない。でもね、あんたみたいな人間には分んないのよ。絶対、分かんないの。

 泣くわけないでしょ。バカじゃないの? あんたに私の何が分かるの? 私にだって何も分からないのよ。自分がなんなのか分かんないの。だけどね、今この瞬間はデリヘル嬢なの。お金で体を売る女、実に明確だわ。見知らぬオッサンにバックでガンガン突かれてた時は、ただのセックス依存症の女。そういう事なのよ。

 だって苦しいの。
 輪郭だけでも欲しい。自分を象る枠組が欲しいの。型に嵌った生き方、なんて素晴らしいの! 私は嵌れなかったの。そして見失ったわ。全部全部全部。

 もういい? 何もしないんでしょ? 帰るわよ、私。……ああそう、あと26分残ってるものね。はいはい、分かりました。それでどうしたらいい? 私は。ねぇ、どうしたらいい?
 ……は? 何言ってんの。あんたにそのお金見せてさ、後悔させてやろうって思っただけよ。あんたがシマムラ着て吉牛食べて、それで結果そんだけの大金を無駄に過ごしたってね。
 うるわいわね。うるさいのよ、あんた。

 だって苦しいの。
 苦しいのよ。そのお金、使おうと思っても使えないんだもん。ドブ川にさ、投げ込もうと思っても投げれないんだもん。お金に執着何かないのに。
 だけどそれもこれも今日でおしまい。あんたの指名がいくら入っても私、もう来ない。店を移れば済む話だもの。友達にだって戻らない。

 やめてよ。バカな話しないで。
 これあげるわ。マンハッタンごとあんたにあげる。自分を大事にしろってこう言うこと? ねぇ、こう言う事なの?
 
 だって苦しいの。


 ねぇ、苦しいの。



 苦しいの。




 苦しいのよ。







 …………。





 だって苦しいの   ――了――
作品名:だって苦しいの 作家名:有馬音文