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21,D.I.K日記(最終回)(12月31日)

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21、D.I.K日記(12月31日)Day invent kind日記

 今日は診察があった。
「どうですか調子は?」
「そうですね。悪くはないですね。リスパダールという薬も前ほど辛くはないです」
「今どうしたい?」
「退院したいです」
「まあ。そう焦らないで。それより心境の変化は?」
「僕は確かに将棋が強くて学業も人よりできてる人間でした。でも人間誰でも矛盾を持っていて、将棋NO.1の座についても、そこには偏りがあって、影があって、僕は人より強い人間だと思っていたけど、自分のWeak pointを直視できない、他人の価値観を取り入れられない点では、人より弱い人間だと思いました」
 院長はいつになく身を乗り出して聴いてくれた。真剣な眼差しだ。
「強いと思っていたものが弱くて、弱いと思っていたものが強くて、僕はここの釜本さんのように自由におおらかに生きている人間をはじめ嫌っていました。同時に自分でもうすうす気づいていましたが、釜本さんや国語の西城を憧れてもいました。散々あの二人の悪口を今まで言ってきたけど、ずっと気になる存在だったし、ただあの二人はNYの一人旅を行ってしまった気分屋の母とリンクしてしまって…
 しかし僕も母もモラリストからほど遠い生き方をしてきた。それはモラリストの父への抵抗でもあった。なんて言ったらいいか分からないけど、僕と母は父の影として生きるしかなかった。父は完璧な人間に思えた。でも完全肯定や完全否定の世界は恐いものだと分かった。人は一人では生きていけない。社会があってその輪の中に入って、その輪の中で自分らしさを見つけて、でも社会にいる限り、傷つけたり、傷つけられたりして、傷つけ合うのは悲しい事だけど、それは避けられなくて、また自分が分からなくなって、それでも前向きになって、また自分らしさを取り戻す。その自分らしさを取り戻したときはきっと前より強くなっていると思う」
「そうか」
 院長はどこか嬉しそうな表情だった。
「このいい状態が続けば近々開放病棟に移って、いずれ退院になるかもしれない。退院後の抱負は?」
「退院したら、僕と同じ心の病をもった人へのカウンセラーになりたい。そしてある女性の様に絵が描けるようになりたい。そしてカウンセラーになって経験を積んで、いずれ独立して絵画教室を開いて、絵画を通して心の傷を負った人のカウンセリングをしたいです。絵画カウンセラー、聞いた事ないけどその第一人者になりたいです」
「カウンセラーになるにはまず自分がしっかりしなきゃな」
 院長は少し笑って言ったが、
「まあ、いいんじゃないの。夢があって」
と、付け加えた。
「だから、一日も早く退院したいです」
「まあ。そう焦るな。ゆっくり生きなさい」
「はい」
 僕のカウンセリングはやっと前に進みだした。前進した。これもみんなのおかげ。恵ちゃんのおかげ。恋が、彼女への恋が、僕を救った。僕の旅はこれから始まる。
 そう、僕はまだ始まったばかり。
 きっと素晴らしい人生になると、そう信じて。
                        (完)


 この物語はフィクションです。ノンフィクションと思わせてしまった方には、大変失礼いたしました。すいません。作者である私が医療従事者であり、今もなお精神疾患を患っている方のケアをする仕事をしているという事実もありますが、守秘義務に反する事は一切していないことを誓います。green teaの作品は他にもたくさんあるので、これからも宜しくお願いします。