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black blood

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スフィア・レフィル。それが私の“今”の名前だ。2回捨てられている私には当然本名などあるはずもなく、いや…この場合覚えているはずもない、というのが正しいか。この名前は私が覚えているもので2つ目、となる。今日は推定17歳、仮の誕生日だ。
私は、きっと私の故郷たる死神たちの拠点、下界に住んでいる。王宮警護官たる女性と、それが拾ったらしい双子と一緒に暮らしている。推測だが私を拾った王宮警護官はきっとよほどの優しさを持っているのだろう。

「スフィー。誕生日おめでとう」

早朝から聞きなれた――――といっても会って精々1ヶ月――――声で話しかけられた。はっきり云おう。迷惑極まりない。しかも、女子の部屋にノックなしにしかも通常なら寝ている時間に入り、開口一番。あれだ。
多分今年始まって一番不機嫌だろう。それほどまでに私の精神は殺られていたのだから。

「どうも。でも嫌いだから、誕生日。」

暫く切っていない間に腰まで伸びきっている邪魔な黒髪を持ち上げながら状態を起こす。乱雑に、結ぶ。

「相変わらず女子力のかけらもないことで。」
「悪かったね」

早朝なため心底ねむそうな声で、それにましてめんどくさそうに答える。早朝に起こされたとはいえ一度起こされてしまえば寝る気にもなれない。ベッドから降りて近くにある鏡の前に仕方なく立って仕方なく、どうしようもなく仕方なく髪を整えていく。
鏡越しに見える、今まで軽い会話を繰り広げていたシュウと目が合う。あいかわずの表情に顔を歪めながら、熟思う。
コイツは黙っていれば確実に美形だ。ただし、黙っていれば。その双子もまた一卵生双生児のため美形で同じ顔をしているのだが性格が真逆――――それでも変わらずどこか残念――――なため双子とは到底信じ難い。

「フェーラさん。今日、遅いってさ」

フェーラというのは私を引き取ってくれた王宮警護官の女性だ。もちろん、このシュウとその双子のラルクも引き取られている。理由を聞けば子供が好き、とのことだった。

「それで?いつものことでしょ」

さも当然のように答える。いつものことであることを言われると意味がわからないと小さく首を振った。高くポニーテールに結んだ髪を揺らしながらシュウと向き合うようにベッドに座って足を組む。いつもの座り方だがこのせいで案外腰に歪みが生まれたりしている。

「まぁ、そうだけど。探しているって人、探しに行かない?」

耳を疑うその言葉に硬直し、呆れたように目を細めて目の前の相手を軽く睨み蔑むように口を開く。

「…24区は封鎖中、22区はバリアが極限まで薄い。それでも23区から出る気?」

つまり、訳そう。封鎖中な24区はどう頑張っても“一般人”のわたし達は通ることが絶対不可能だ。 22区はバリアが極限まで薄い。つまり、この中央区を守っている壁をすり抜けて魔物が入ってきたとしたら一番最初に餌食になるのは22区ということになる。それもありフェーラが属する王宮警護官の主部隊が多く見回っているのである。もし、もし。

『ただの一般人がはいってきた魔物をいとも簡単に倒してしまったら』

答えは一つだ。確実に、特殊戦闘部隊“狂楼”に押収される。それだけは避けなければならない。私がもう“狂楼”に所属していることがバレないためにも。

「…大丈夫、でしょ…」

透き通ったよく通るが聞こえる。シュウと酷似した容貌で、それでもシュウより少し幼げの残る顔の人物が目に入る。対照的なのはシュウは薄い茶色、この少年は真っ黒な髪をしていることだ。生まれつき、ということだった。

「あぁ、ごめんなラルク。起こした?」
「シュウが、うるさいから」

黒髪の少年の名はラルク。シュウの双子の弟だ。いう事もなく性格は大人しく、毒舌で、口数が少ない。どこまでも真反対なのがこの双子の特徴だと言える。

「で、行くの?」

二人の口喧嘩など正反対なのだから起こるのは当たり前で、それを知っている人は適当に流す。私も例外ではない。

「行こうぜー。暇じゃん?どうせ、さ。」

言い出しのシュウは言うまでもなく肯定。ラルクは話を聞いていたのだろう。口は開かないが小さく頷いてそれを表す。

「なら、行こう。早く準備してきてね。」

着替えるため二人の背中を押して部屋から出ていかせる。フェーラは多分、もう出ているだろう。
22区に行くことが決まった。
作品名:black blood 作家名:神玖