17.D.I.K日記(12月27日)
今日は診察があった。はじめこの間の将棋のトルフィーを、窓ガラスに向けて投げつけたことで怒られると構えていた。
「椎名卓さん」
名前が呼ばれた。
「はい」
院長は少し黙っていたが、別段怒り口調でもなく、
「この間ガラスを割ったという報告があったが」
「はい。割りました。取り乱しました」
「怒って割っちゃったのか」
「はい。気持ちを抑えられなくて。でもあんな衝動的になるのは初めてで。そのおかげで夜中、段ボールの隙間から風が吹き付けられ、その風は悪い気はしなかった。その罰が心地よかった。悪い事はしたけど」
院長は少しニヤッとしながら、
「でも君みたいな将棋の大会で優勝して、合理的な人がガラスを割るなんておかしなもんだな」
そう言ったので、僕は少し笑って、
「おかしなもんですね」
「おかしいな」
「おかしいですね」
二人で笑った。まるで、兄弟が新しいお菓子を分けて食べてその喜びに笑いあってるような、そんな二人の笑いだった。
「でも一応医者として薬があっていないか調べなきゃいけないから、今晩からエブリファイを止めて、リスパダールに変えとく。はじめはリスパダール3mg」
「はい。分かりました」
そうして診察を終えた。
作品名:17.D.I.K日記(12月27日) 作家名:松橋健一