8.D.I.K日記(12月21日)
今日は診察があった。その前に前もって午前中に採血をしていた。
「気分はどうですか?」
おじいさん院長先生は訊いてきた。
「なんかだるくて本調子じゃないですね」
「血糖値が高く出てるな。ジプレキサの副作用は君の場合強く出る様だ。うーん。じゃあとりあえずエブリファイに薬を変えてみるか。薬は続けなければいけない」
「薬は飲まなきゃいけないんですか?」
「うん。飲まなければいけない」
「僕の病気っていったい何ですか?ただ自殺未遂をしただけでしょ?」
「受け入れがたいかもしれないが、これは病気なんですよ」
「病名はなんですか?」
「……統合失調症」
院長は口を濁してそう言った。
「治るんですか?」
「昔は不治の病だったが、今は治るんですよ。いずれ普通に仕事もできる」
「そうですか。僕は統合失調症」
「昔はこの病気は精神分裂病という名で呼ばれていて、あの夏目漱石も太宰治も精神分裂病だった。あの当時はあまり薬も開発されていなかったから、病気を治すこと自体大変な事だったけど、今は薬も制度も昔に比べて格段に進歩したから、心配するな。ただの心の風邪だ」
「そうですか?」
「それよりどうだ入院して数日が経つ。気持ちの変化は?」
「変化ですか?まあ僕は将棋の大会で優勝したこともあるし、自分は強い人だと思っていました。でも今日テレビで、ザ・ノンフィクションを見てたんです。そこで沖縄から上京してきた板前さんが出てきたんだけど、職人としてもまだまだだめで。彼は弱い人間に見えましたね。同時に今彼の様な友達を作りたい。今まで自分にプライドを持っていたけど、今まさに彼らの様な人間と繋がっていたい、向こうに拒まれるかもしれないけど。印象に残ったのは、彼の上司の積極的という言葉です。彼はNYに行くように言われたけど、母も僕をおいてNY行ってしまいました。母は無計画で気分屋で、今日の彼もなまものをトラックで販売しようとして、沖縄の現地で仕事をしている人に止められて。そんなところ母にそっくりです。そう言う無計画者は馬鹿を見ればいいと、思ってましたが」
「それは計画に対して彼らの持っているものはなんだ?」
院長は僕の目をしっかり見てそう訊いた。
「計画に対して…計画の反対…やっぱり無計画ですよ。母の様な無計画人間の様な人がいるから、僕はたくましくなるしかなかった。その勲章が全国オール学生将棋選手権戦の個人で優勝です。もう迷わない。僕はやっぱり強い人間です」
「他に言う事は?」
「言いたいことはいっぱいあります」
「まあその話は今度ゆっくりきこう。エブリファイ今晩から飲むように」
打ち切られるように診察は終わった。
作品名:8.D.I.K日記(12月21日) 作家名:松橋健一