6、D.I.K日記(12月19日)
今日は朝5時に目が覚めた。夜勤明けの釜本がきた。
「あれ、早いじゃない」
「おはようございます」
僕は冷淡な口調で目を向けず挨拶した。
「椎名さん。あなた手話できるんですってねえ」
「将棋もできますけど」
「特技がいっぱいあって羨ましいわ」
釜本はそう言って去っていった。
“本当そう思って言ってんのかよ。ああ、イライラする。あの釜本とかいうおばさん。なんか似てるんだよねえ。最初から感じてたけど、塾の国語の担当の西城と。本当イライラする”
僕達の病棟はL字型の病院だから、閉鎖病棟の女性の病棟が見える。はっきりではないが見える時は女性の顔まで見える。
その時だった。
そう僕は確かに見た。
僕の目にしたものは美しいそして清楚な女性だった。こっちを見た。しばらく目があった。向こうは表情を変えず、すぐ後ろを向いて去ってしまった。
綺麗な子だったなあ。あの子はどんな人なんだろう。あの子の事が知りたい。
作品名:6、D.I.K日記(12月19日) 作家名:松橋健一