5、D.I.K日記(12月18日)
今日病院で初めて声をかけられた。
「お前あの、おばさんむかつくだろ」
声をかけてきたのは一人の図体のでかい患者の男だ。ガキ大将タイプか。
「掃除の?」
僕はそう聞いた。
「掃除やってるけど一応ここの非常勤職員なんだよ。釜本っていうの。大抵ここの職員は、看護師、精神保健福祉士、理学療法士、作業療法士とか資格もってるけど、釜本はヘルパー2級しか持ってないの」
「ヘルパーさんか」
「そう。それで普通職員はこの仕事で医師でなければ、やたらめったら話してこない。聴くことに徹するんだけど、釜本はやたらとしゃべってくんだよね。あいつの息子も精神障碍者らしいんだよ。それで自己主張が強いというか。でも大抵あいつが俺達の見守りなの。いい職員とはなかなか話ができない」
男はそう言って離れようとした。僕は、
「名前は?」
「俺?小野寺。宜しくね」
「僕は椎名。宜しく」
男は去っていった。
僕はその小野寺の話を聞いて、ここの成り立ちがはっきり分かった。なんか、教養のない奴だとは思っていた。大学も看護学校も出てないのか。それで俺たちの面倒を見ている。
昼暇だから文学全集の谷崎潤一郎の作品を読んでいたら、釜本が、
「そんな難しい本読んで。これなんか読んでみたら。生協の白石さん。面白いわよ」
「そんなの読んでなんか為になるんですか?」
僕はきっぱりとした口調で質問した。
「ためになるとかならないとかって…うーん。でも人生もっと無駄な事をしなさい」
釜本はそう言って、隣の部屋に掃除に行ってしまった。
“うるせいんだよ。余計なお世話だよ。誰が生協の白石さんなんか読むか。もう別に新しい本でもないし。そんな一般人の何でもない会話のやり取り聴いてもしょうがないだろ。まだこないだビートたけしの選挙の時毒舌はいたらしいがそっちの方が、興味あるわ”
優雅な世界気取りやがって、ひねくれている僕達に対しての嫌味か、僕はどうせ嫌われもんだよ。友達いねえよ。そう言えば今朝目ざましテレビのテーマソングがSEKAI
NO OWARIの音楽が流れてたっけ。
院長が言ってたな。
悪魔がいて天使がいる同様に天使がいて悪魔がいる
僕の中の天使の頃の記憶―――
―――そんなのもうわすれたよ。
作品名:5、D.I.K日記(12月18日) 作家名:松橋健一