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2、D.I.K日記(12月15日)

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2、D.I.K日記(12月15日)

 とある深い事情があって、場所が変わった。何から話していいか、とにかく僕は今病院にいる。事の発端は昨日の晩ある事を決行しようとし、ためらい、一晩中寝ないでいたが、今日の朝また決行しようとした。家に近くの246のガード下の壁にペンキで会社の悪口を落書きしようと計画していた。昨日日記をアップした後、ペンキを購入していた。今朝ガード下まで行った。行ったはいいものの、僕は自分のしている事の大きさに怖くなり、足がガタガタ震え、そこを警察官に見つかった。ただ必死で逃げたが警察官の足は速い。
 絶対捕まる。これでおしまいだ。僕は持っていたカッターナイフで自分の手首を切り付け、そこを警察官に取り押さえられた。もう何もかもどうでもよくなり自暴自棄になってパトカーに乗った。傷が浅かったので応急処置はしたが、病院に行くのではなく、警察署に連れて行かれた。
 しばらく警察官から質問を受けた。
「名前は?」
「椎名卓です」
「職業は?」という感じで、
 本当に死ぬ気だったかを念を押して聞かれ、死ぬ気だったと答えた。何やら質問を受け答えるが話がうまくまとまらず、言いたい事が溢れて止まらなくて、話を遮られた。
 しばらく待たされて、警察官は誰かと電話越しに話をしている。
「はい。はい。名前は椎名卓だそうです。24歳です。32条適用ですか?区のケースワーカーさんが来て下さるんですね。分かりました」
「今ケースワーカーが来るからちょっとそこで待ってて。ご飯は食べてないよね?まあいいや。病院で食事出るか」
「病院ですか。怪我なら大丈夫です」
 警察官は、
「病院の事は後で詳しく説明するよ」
 そう言った。
 パトカーで病院に連れて行かれた。そこは精神病院だった。僕はある一室の前まで通された。その一室の中に僕は呼び出された。そこには白い服を着た男の人女の人複数名と私服を着た60歳くらいのおばさんがいて一人の老人はデスクの前に座っている。周りの人が看護師でこの座っている人が院長だろうか。もう70を超えているかもしれない。
「院長。椎名卓さんです。保護入院という事で区のケースワーカーから連絡がありました」
 一人の白服が言った。
「椎名さんね。お年は?」
 このおじいさんの院長と言われる人は言った。
「24です。もうすぐ1月で25になります」
「そう生れは?」
「東京都練馬区です」
「練馬区出身?」
「幼稚園の頃、東京から横浜に越してきたので育ちは横浜です」
「学校は横浜の翠嵐高校を出て、東京学芸大学教育学部中等教育教員養成課程数学専攻卒業か」
 院長が言った
“なんだ知ってんじゃないか。さっきの警察官から情報が渡ってるんだ。この院長何で今までいちいち聞いてきたんだよ”
 院長は続けた。
「このままだと保護入院。つまり強制入院になっちゃうけど君が今自主的に入院すると言えば任意入院になる」
「強制入院と任意入院どう違うんですか?」
「強制入院だと退院したくても本人の意思だけでは退院できない。任意の場合は本人の意向を尊重する。どうする?入院するか?」
 僕はしばらく考えた。
「入院中英語の勉強をしても構いませんか?」
「ああ。かまわんよ」
「中国語の勉強も?」
「ああもちろん」
「将棋とかできるんですか?」
「将棋だったら大久保さんがすごく強いから対戦相手に困らないわよね」
 私服の60位のおばさんが言った
“このおばさん僕が将棋アマチュア4段だってこと知ってて言ってんのかよ”
 そう思った。それと肝心な事を聞いておいた。
「パソコンは?パソコンの持ち込みは?」
「パソコンはみんなで使えるのもあるし、持ってくるのは構わんが」
「インターネット回線は?」
 皆が黙った。一人の看護師と思われる男が言った。
「インターネットは入院中は使えないな。あれはスタッフが使うから」
「インターネットが使えない?じゃあ困ります。それだったら…」
 院長が口を挟んだ。
「今インターネット使っているのは誰だ?」
 看護師に聞いた。
「OT室の佐伯さんとケースワーカーの山田さんとあとは事務所でみんなで使っています」
「閉鎖病棟Aのパソコンのネットは使えないのか?」
「だからOTの佐伯さんとケースワーカーの山田さんが使ってますので」
「使ってない間は?」
「えっ?使わせるんですか?」
「私がいいって言ってんだからいいだろう」
「君もしインターネットが使えるのなら任意入院してもいいか?」
「分かりました。入院します」
「決まった。今すぐ入院。昼食は一人分余ってないか?昼食は何時だ?」
「2部の時間ですと1時です」
「1時?12時じゃなかったっけ?」
「それは1部です」
「じゃあ、今からでも間に合うな。一食分くらい余ってんだろ」
“このおじいさん院長のくせに自分の病院の食事時間も把握してないのかよ。それもあからさまに患者の前で確かめるなんて。こんなあからさまに言われるとかえって怒る気もなくなってくる。変なお爺さんだな。医者だから医学部出てるんだろ。俺も高校時代医学部合格圏に入ってたけど。それで食事の時間も把握してないんだよなあ。この病院大丈夫?やばくない?”

 その後僕は院長と一対一で診察することになった。電車や人混みの中で誰かがあなたを笑っていると思う事はないか?とか、道路のわきのガードレールのポールを数えて歩くことはないか?自分が消えてしまうと思ったことはないか?何の為にそんな質問をするのか分からない質問ばかりだ。その意味を教えてくれ。そうすれば診察もスムースに行く。僕もあなたとそう変わらない学歴はあるんだ。そう思った。
 家族の事も聞かれ、母と父と僕の3人家族、一人っ子だったこと。母は女優で、思いつきでNYに短い間滞在すると言って、そこで日本人の男を作り、しばらく帰ってこなかった事、帰ってきても、酒、ギャンブル、パーティーにはまり、生活もふしだらだったこと。
 そして一方父は設計士で頭脳もずば抜けていたこと。父の兄、叔父も精密設計をやっていて僕の家に良く遊びに来てたこと。父は設計の業界でも名が知れていて、新聞にもテレビにも出たことがある事。その理由としていろいろな部下たちに指導し、人として尊敬を集めている事。父と将棋をよくしていたこと。僕もアマチュア四段で、大学在学中、全国オール学生将棋選手権戦の個人で優勝した経験があるが、父はその上を行くこと。いろいろ話した。院長はいろいろ聞いてくれたが、塾の国語の西城の悪口の話になると急に話題を変えられ、話が中断した。
 母が病院に駆け付けた。父にこんな姿見せられないし、父はここには来なかった。母は衣服は、歯磨きの道具、タオル、パソコンも言われたのか持ってきてた。まだ欲しいものがあるので頼んだ。辞書。文庫本。詰将棋の本。そして将棋の大会の優勝した時のトルフィー。母は、
「トルフィーは持ってこなくていいでしょ。なくなるもんじゃないし」
「でも持っておかないと、僕の実力ここの病院の職員に理解されていないんだ」
「…うん。じゃあ、分かった。持ってくる」
 そう言って母は院長にある言葉を発し、また僕と母もある言葉を交わして別れた。
 ある言葉を…