百合が好き
【著】松田健太郎
○登場人物
爺ちゃん「繁々」
孫「光也」
医者
【1】病室、爺ちゃんが入院している。
●爺ちゃんベッドで寝ている。そこに孫がお見舞いにやってくる。
孫 爺ちゃん、調子どう?
爺 おぉ、光也、今日も来てくれたか。
孫 うん、心配だからさぁ。
爺 ありがとうなぁ。
孫 どーいたしまして。
爺 しかし毎日花を持ってこんでも。
孫 いっぱいあった方が華やかだよ?
爺 病室が花でいっぱいだ。
孫 家にいる時みたく、百合で囲んであげようかと思ってね。
爺 ありがとうなぁ。
孫 爺ちゃんもいっぱいあったほうが安心でしょ?
爺 そうだなぁ、ばあさんに見守られてるようだなぁ。
孫 そうだよ、だから絶対良くなるって。
爺 そうだなぁ、良くならなきゃなぁ。
孫 あっ、ごめん爺ちゃん、そろそろバイトの時間なんだっ。
爺 おお、がんばってこいよ。
孫 うん、また来るよ! お医者さんの言うことはちゃんと聞いてね!
爺 分かった分かった。
●孫ハケ
爺 ばあさんが生きてた頃も散々言われたなぁ。
●医者入り
医者 繁さん、検診の時間ですよー。
爺 はいはい、どうぞどうぞ。
医者 今お孫さんが来てらしたんですね。
爺 毎日毎日うれしいねぇ。
医者 これは繁さん、早く良くならないといけませんねぇっ。
爺 そうだなぁ、がんばらないとなぁ。
医者 それはそうと、すごい量の百合ですね。日に日に増えて。
爺 私が百合好きなのを知っていてくれてな。
医者 好きな花に囲まれるって、リラックスできますからね。
爺 よく、百合は縁起が悪いから見舞いには向かん。というだろう。
医者 そうですね、院内でも繁さんのとこだけですかね、百合を見るのは。
爺 しかしな、それは百合の花が下を向いているからなんだ。
医者 元気がない、枯れている。とか首が落ちるってイメージがあるんですよね。
爺 そう、よく知っているな。
医者 繁さん、百合の話になると熱くなるから。たくさん聞かされましたよ。
爺 そうだったか、すまないなぁ。
医者 でも、繁さんとこの百合は下を向いてませんよ。
爺 それだよ、今はな百合は品種改良されて花は上向きになっているんだ。
医者 それじゃあ
爺 百合は縁起が悪いっていうのは昔のことなのだよ。
医者 繁さん、やっぱり百合の話になると生き生きしますね。
爺 そ、そうか。すまないねぇ。
医者 いえいえ、いいんですよ。そのほうが病気の治りが早くなりますから。
爺 そうなのか。
医者 ええ、気持ちも大事なんですよ。
爺 そうかそうか。
医者 そういえば、繁さんの百合の話はよく聞きますが、繁さんがなんで百合が好きなのか聞いたことないですね。
爺 それは、単純な理由だよ。
医者 教えて下さいよぉ。
爺 あー、あれだ、その。
医者 恥ずかしがらずに、これも検診ですから。
爺 ばあさんのな、名前が、百合子なんだ。
医者 奥さんの。そうだったんですね。
爺 単純だろう。
医者 仲が良かったんですね。
爺 まぁ、そんなもんだ。
医者 さて、ではお薬を出しておきますので、食後に飲んでくださいね。
爺 ありがとうございます。
●爺ちゃん暗転。孫入り。
医者 おまたせしてすみません。
孫 いえ、お話というのは。
医者 お爺さんのことです。
孫 なにか悪いことでも……。
医者 それが、今はあんなに元気にしてはおりますが、体力の低下が著しく……。
孫 ……そうですか。
医者 私もなんとか処置を施してはいるのですが、何分原因がわからず……。
孫 回復の可能性はあるんですよね。
医者 はい、本人はあのように元気ですので。
孫 ……お願いします。先生……。
医者 できれば今までどおり、たくさん会いに来てあげてください。
孫 はい。
医者 では、お大事に。
孫 先生も、身体には気をつけてくださいね。
医者 ありがとうございます。
●孫ハケ。
●数時間が経過する。医者と爺ちゃんはそれを表現。
●ピリリリリリとナースコールが鳴る。
医者 繁さんの病室だ!
●爺ちゃん明転。
医者 繁さん! どうされました!
繁さんっ……。
●時間が経過。爺ちゃんハケ。(運ばれて)
医者 繁さんの顔、言いようのない恐怖に取り憑かれてるようだった。その表情が、この世のものとは思えなかったんだ。それに、病室を埋め尽くしていた百合が……全て下を向いていた。
終わり