戯言
【著】山田直人
○男
○少女
男は客を呼ぶ、少女は座って男を眺めている。
有象無象が男と少女の前を通り過ぎていく。
男 やあ、皆の衆。ごきげんよかろう、よろしかろう!
よろしい、よろしい。すっかり冬だな。
マッチを擦るには、いい日になる。
あたたかな部屋の中で、あたたかな家族と共に、
あたたかなスウプを掬って、あたたかな言葉をかけると、
いい日だ、いい日。すっかり冬だな。
さてはて、やあやあ、皆の衆。
今宵に御見せしまするは、私の芸の究極の、されども見せるには足りぬ、
中途半端に究極の、つまらぬ芸にてございます。
もとより男というものは、何かを成さねばならぬのと、
世迷いごとを言われます、が、今宵に私が成します事は、
粉雪染めるようにして、なんにも起きぬそんなこと。
いい日だ、いい日、あゝいい日。
売れぬ役者の戯言を、其の両耳の内に蔓延らせ、
見せるに堪えぬ私の芸を、其の眼を以ってご覧あれ!
男は懐からリボルバーを取り出してシリンダーを適当に回転させると、ハンマーを起こし自身のこめかみにあてる。うつ。
少女はしばらく男だったものを眺めると、そばに寄り頬にくちづけをする。
少女は嬉しそうにハケ。
終わり