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それが家門なら

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16 今日はまだ



(1)

買収の
とどめを刺す日は

醜い獣の正体が
君にも
君の家族にも
否が応でも
露見する日

そしてまた
君の前から
永遠に
醜い獣が
姿を消す日

その日も
そんなに
遠くないのに
退散の日は
すぐそこなのに

本能に
逆らう意地も
狩りを投げ出す
勇気もないのに

腑抜けの獣が
今さら獲物に
血迷ったとて
恥の上塗り
見苦しいだけ

それよりも

今日の舞台を
努めきろう
今日の恋人を
演じきろう

明日は牙むく
獣でも
今日はまだ
君の恋人

それなら
今日が終わるまで
恋人として
舞台に立とう

果たせるかぎり
果たし終わって
舞台を下りよう

そして明日
君の前から
悔いなく去ろう


(2)

「一言も信じるな」

賢明なはずの
君にして

この言葉だけは
疑いもせず
そっくりそのまま
信じたんだよ
気づいてた?

街に出て
君の手ひいて
今日を限りと
道歩くだけじゃ
もったいなくて

人が行き交う
歩道でいきなり
口づけた

恋って
そもそも
病気なんだろ?
恐いものなんか
あるもんか

不意打ちすぎて
物も言えない
どんぐり眼が
可愛かった

露店で買った
赤いマフラー

いつもしててと
言ったが最後
君はほんとに
離さなかった
片時も

2人乗りの
自転車を
さんざんこいで
乗り飽きて
土手に並んで
夕日に見とれ

いっしょに見たいと
駄々こねて
生まれて初めて
日の出を見た朝

漢江の
ほとりで君は
僕のとなりに
立っててくれた

今日を限りと
知ればこそ

幼稚なこと
突飛なことが
後ろめたくも
恥ずかしくもなく

今日を限りと
知って日増しに

平凡なこと
些細なことが
鮮やかに
心に沁みた

芝居の舞台で
君にもらった
思い出は
僕にとっては
ひとつひとつが
小さな祭り

祭りは
はじけて
まぶしくて
いつか必ず
終わるもの

そして哀しく
思い出すもの

初心(うぶ)で
奥手で
臆病なくせに
負けず嫌いで
果敢で
大胆

共演など
もう二度とない
稀有な恋人

束の間の
恋人役は
役者冥利の
一言だった

作品名:それが家門なら 作家名:懐拳