小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
佐崎 三郎
佐崎 三郎
novelistID. 27916
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

『鯉の恩返し』(予告篇)

INDEX|1ページ/1ページ|

 
「鯉の恩返し」(予告篇)

嬉野温泉の嬉野川の遊歩道を、いつものようにギタレレを搔き鳴らしながら、鼻歌を気ままに歌っていたのさ。夕方の17時過ぎだったかな。昨日もこの遊歩道を散歩していたので、川床が岩でできているのは分かっていた。だから、なんとはなしに目に入った状況を、咄嗟に把握はしたよ。だけれどもだよ、魚がさ、魚が水の流れる川床でさ、横になってさ、寝ているのをみて「ああ、寝ているんだ、ふ~ん」と理解したかのような賢さを一瞬持ったとしても、二度見するかのような形で、その状況になにか疑問を持つだろうよ。

魚、見れば鯉だよ、大きな成魚だ、どうみても。死んでるんじゃないのはパクパク動く大きな口を見れば分かる。大人なんだから‘自分からそのような形で居るんだ’と解釈できないわけではないとも思ったよ。でもさ、でもね、どう見ても自分の身体を持て余しているようにしか見えないんだ。ひっくり返って起き上れない亀みたいにね。でもさ、もうもがきにもがき疲れ果て、口を動かすぐらいしかできないまるで‘寝たきりな、俎板の鯉’って感じにしか見えないわけ。

ギタレレはもう弾いてないよ、もちろん。正直、笑ったよ、笑ってはいけないと寸時に切り替えたけれども、笑わざるを得ない、こう、あり得なさ感があるでしょ?え?ほんとにって。それで、一応は写真は撮るわな、一応だよ一応。撮っておかないと、そうこうしている間に、何らかの力でたとえば流れる水の力でさ、流れてしまうかも知れないじゃんか、そうなったら、この面白さ(面白いと言っては鯉にも申し訳ないけれどね)が嘘になってしまかも知れないじゃん。え~、ホントに~って。だからまずは撮るのねまずは。

でね、半分自分を笑いながらさ、でも半分は真剣に人命救助ならぬ鯉命救助をするという責任を感じてね、こう行くかって覚悟を決めて、まずギタレレを置かねばならないのでギタレレケースを肩から外して遊歩道のコンクリの上に置いて、ギタレレをそっと置くわけ、置きながらも横目で鯉を見る訳、なぜならその隙に流れたらまた笑いと哀しみに包まれてしまいかねないから。で、見ながら置いて、スニーカーを脱いで靴下も脱いで、とこうしながらものんびりしてるな~って思ったりしてるよ。命に関わるんだからもっと急げよって。

でもさ、そうこうしているうちに流れかねないので、流れてしまうかもしれないのに急いでしまうのもなんか違うなって思う訳。いやじゃないのだよ、流れるのも、裸足になるのもね。でもね、そんなことをしようとしている自分をさ、ちょっと、そうちょっと客観的に見ているのね、たぶん。何やっているのだって。でも、同時に助けなきゃって固い決意と使命感に溢れてるので、なんかそのちぐはぐさ?ズレっていうのか、その差に笑ってしまいそうになるのね、人間て不思議だね。

まあ、脱いで、いざ鎌倉って行くときに、あっと思ってスマートフォンを手にする自分がいるのね。或る意味残酷だね。でも、ロバート・キャパもさ、同じじゃん!あっと違うか。でも、まああるよねそんな欲望がさ。自分の眼だけじゃない何かに残したいって。で、手に取って、ゆっくり歩いて、足元に注意して近づいて行って、「おい、だいじょぶか?」なんて言っちゃう訳よ、やっぱり。言葉が通じないんだけど。それで、「ん、だいじょぶそうだな、ちょっと待っててね、写真撮るから」そんな自分がいるんだよゼッタイさ、いるにきまってるよみんな。

で、数枚撮って、よしとスマートフォンをポッケにしまい、(だからここからの写真はないわけ)、ゆっくりやさしく両手を差しのべて、「おい、いま自由にしてやるからね、そっとね、身体に触れるよ、大丈夫、釣り好きでさ、魚のウロコの扱いには慣れてるから。ほら、いい。せ~のっと、おお、いい身体してるね、肉付きもいいし、締りもいいね、ああ、重いね、おもいおもい、え?標準だって?知らないよそんなの。ははは。まあ、これぐらいのを釣りあげたら竿はもうしなりにしなってもう大変。釣り掘りだった、折れてるよほんと。よし、これでいいね、こんな浅瀬にどうしてきたの?流れちゃったの?またヘンな欲を出したんでしょ?わかるわかる、そういう年頃だよね見た感じ。でもね、その口の動きに、生命力を感じた。大ジョブ、ほら流れるよ、深みにいくよ、身体を立てて、そうぼぅっとしてないで、よし、よし、あら、浮かんできたよ、おい、もう駄目か?おっと、おどろかすなよ、できるんじゃん、泳げるんじゃん、じゃあな、またな。って、もう逢えないか、さよなら、元気でな、僕のことなんか忘れてもいいいけどね、まだまだ死ねないよ、いい身体してんだから、もう、へんな欲望に負けないで、王道でもいい素直にいけよ、まあたまにはハメをはずすのもいいけど、とにかく気をつけてね、じゃあな、バイバイ、バイバーイ。