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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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加藤の真意



「な? こうなると思ったんだ」島が言った。「あんな激しい運動を長く続けられるもんかって。ボクシングみたいに三分やって一分休んでとやるんでなきゃ無理さ」

「ははあ」と太田。

「だから、加藤はわかってたんだよ。このルールじゃ勝負なんかつかなくて、ふたりとも息が上がっておしまいになるに決まってるとね。『勝った方が指揮権を』とか、『敗けたら死ね』とか言うのはだから本気じゃなかった」

「そうか」「なるほど」

と、横で聞いてたクルー達も頷いた。

彼らもまた軍人だ。下の者が上官をイビるのはどこでもある話にしても、今の加藤のやり方はちょっと行き過ぎじゃないのかという思いがやはりあったのだろう。本当に命を取るなどできるわけがないにしても、引っ込みがつかなくなったらどうする気なのだとの思いも……しかしなんのことはない。決着つかずに終わるのを見越したうえのことと言うなら、ただの見物人としては『なんだ』と言うだけのこと。

なのかも知れぬが、森としては黙ってなどいられなかった。

「何よそれ、人騒がせな……今、一体、どういうときだと思ってるのよ!」

「今がこういうときだから、加藤はあれをやったんだと思うがな」

「そういう問題じゃないでしょう! とにかく、船務科になんの断りもなく……」

言ったが、島は、『船務科の問題はオレの知ったことじゃないな』という顔をするだけだった。

森は忌々しい思いで展望室の中を見た。航空隊の隊員達が中に入って古代と加藤を囲んでいる。最初から加藤の考えを知っていたか、島同様に途中で気がついたかなのだろう。この勝負はこれで引き分けというわけだ。古代ひとりがまだ事情が呑み込めてない顔でなんだかキョロキョロしている。

森はギリギリと歯噛みした。何もかもが癪にさわる。だいたい、あの古代のやつが士官のくせに頼りないからこういうことになるんだと思った。なんでたびたびあいつのためにあたしが気を揉むことになるのか。

古代が並の人間ならば、あっという間に加藤にやられておしまいになっていたはずだ。その場合はすべてがまずい方向に転がり落ちているわけで、加藤が島の言うようにすべて承知でやったのならば、これが極めて危険な賭けであるのもよくわかっていたことになる。そうだ。わかっていたのだろう。でなければ今、あんな顔で笑ってはいまい。

加藤はそれでいいかもしれない。だが、船務長の自分としては、いいことなんかひとつもなかった。

ヒューマン・ファクター。またこれだ。何かあったらそのツケを代わりに払わされることになるのが船務科員であり、その長である自分なのだから。今日はこれで済んだからいいじゃないかという考え方は、決して森の立場ではしていいわけがないのだった。

「ううううう。なんなのよもう、勝手なことをやりたいように……」

森は唸った。島と太田が、怖々とした表情で身を引いた。

「みんな一体どういう気なのよ! 熱血マンガの実写映画化でもしてる気なんじゃないでしょうね!」