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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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カルトの問題



「何やってんのよ、あたし……」

展望室にひとり残され、森はつぶやいて言った。無重力で舞い上がってしまったせいか、古代相手に〈舞い上がって〉しまったようだ。しかし一体、あいつに対して何をパニクることがあるのか。

本当はあんなことを言おうとしたのじゃないはずだった。しかし口をついて出たのは、ガミラス教の話だった。あんな話をいきなりされたら誰だって、めんくらうに決まってる。古代が返答に困っていたのは顔を見てわかったのに、切り替えできずに突っ走っていってしまった。あのままいったら最後はなんて古代に言っていたのだろう。

変な女だと思われたろうか。それが気になる。あの男にどう思われても別にかまいはしないはず。なのに気になるのはどういうわけか。会議の間もあれが敵に向かうかと思うとずっと気になってしかたなかったが――。

冥王星攻略作戦。もし実施されるとなれば、あの古代が隊長として〈ゼロ〉に乗り、何が待ち受けるか知れない敵地に赴くことになるのだ。作戦の成否が古代進という男ひとりにかかると言っても過言ではない。

いや――と思った。事はそんなものではない。地球人類の運命すべてだ。何もかもあの男ひとりの肩にかかってしまう。

だからあいつが気になるのか。失敗すれば航空隊は全滅だ。〈ヤマト〉もまた沈められるか、遊星基地をそのままに航空隊なしでマゼランに向かうことになるか。

あるいは一度地球に戻り、人類を救うための船でなくひと握りのエリートが逃げる船として宇宙へ再び出ることになるか。

古代進という男、それがわかっているのだろうか。会議の間、ただアッケにとられたように話を聞いていただけだったが。

それも無理はないと思う。あの作戦はやはり無茶だ。艦長は何を思ってあんな作戦を立てさせたのか。ここは島の言う通り、危険は冒さずマゼランに向かい、日程の遅れを取り戻すことを第一に考えるべきではないのか。

地球ではまず何よりも子供達が死に瀕している。〈ヤマト〉は子を救うための船なのだから。

もちろんそれはそうなのだが、しかし、と思う。太陽系をこのままに〈ヤマト〉は外に出ていいのか。できるものならまた数日の遅れを出しても〈スタンレー〉を叩いていくべきではないのか。

それが会議の間じゅう、森が考えていたことだった。地下都市ではガミラス教の信者が数を増やしている。〈ヤマト〉が帰り着く頃には、カルトがどこまで広がっているかわからない――その思いがずっと頭をグルグルまわり動いていたのだ。

この小部屋に宇宙を眺めに入ってきたのも、そもそもこんな考えで気が高ぶってしまっていて、少し冷静になろうと思ったからだった。それが気が落ち着くどころか、古代進――あのやっぱり疫病神のような男にぶつかってしまったせいで、すっかり頭に血が上ってしまったのだ。

それで何か話さなければいけないと思った。いつの間にかカルトの話をまくしたてていたわけだが、本当に言いたいのは別のことであるはずだった。しかし今、あらためてひとりになって考えてみると、それがなんだかわからない。先ほど自分は古代に対して何を言いたかったのだろう。

窓外の星を眺めて、今度こそ気を静めて考えてみようと思った。だが思考は乱れるばかりだ。〈スタンレー〉。叩くべきか避けるべきか。最後に決めるのは艦長であり、自分はそれに従うしかないわけだが、沖田艦長はあの古代を航空隊長にするのも決めた。

なぜ古代を? タイタンでは確かに思わぬ働きを見せた。島はあの男には得体の知れぬ強さがあると言っていた。艦長は古代が持つ何かをひと目で見抜いたと言うのか。〈ヤマト〉に必要なものとして――。

〈スタンレー〉を攻めるとなれば、その古代が〈コスモゼロ〉であの悪魔の星へ行く。そうだ。だからどうしても、わたしも何か彼に言うべきことがあると思ったのだ。ガミラス教のことなんかじゃなく。

いや、そもそも、悩んでいたのはカルトの問題じゃなかったのか? それがどうして、古代に何が言いたかったかという話になってしまうのか。やはりどうかしてると思った。今、地球の地下都市では、ガミラスを神の使いとする宗教が蔓延している。〈スタンレー〉を迂回して〈ヤマト〉が太陽系を出れば、カルトはますます信者を増やしていくことになる。

それはつまり、わたしのように狂った親に育てられる子を出すことだ。何百万という数で。

そう思ったとき、森は叫び出しそうになった。ダメだ、と思う。絶対にそんなことがあってはいけない。あんな大人の犠牲になる子を出してはいけない。そう誓ったわたしが今ここにいて、敵を前にしているのに。

やはりガミラスは叩くべきだ。できるのならば戦うべきだ。たとえそのため、日程をまた数日遅らすことになろうとも。

この〈ヤマト〉は子を救う船なのだから。そのため宇宙にいるのだからだ。そうだ、と森は思った。自分はそういう考えであるはずなのだ。