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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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闘鶏



「そうか」と島が言った。「わかったぞ、加藤の考えが」

「え?」と太田。「『考え』って言うと、どのあたりの……」

「だからあれさ。『おれが勝ったら指揮はおれ』とか、『敗けたら死ね』とかいうやつだ。あれはやっぱり本気じゃないんだ」

森は言った。「そりゃあそうよ。だって軍では……」

「いや、そうだけど、おれが言うのはそれと違うんだ。見てればわかるよ」

自信ありげな口ぶりだった。森は訝しみながらも、「へえ」と言って頷いた。島のようすはいつもと違う。まるで別人のように見える。闘争心を刺激された猫か何かの動物のような。

そうだ、と思った。元は島も古代と同じく戦闘機乗り候補として訓練を受けた身なのだから、こんなの見れば血が騒いで当然だろう。古代が候補を外されたのは『闘争心に欠ける』というのが理由と聞くが、島の場合はまた別だ。

死なすのは惜しい人間だから。そのように判断されて生かされたトップ1パーセントの中のひとり。それが島だ。補給部隊にまわされてさらに落ちこぼれ、とうとう軽トラ運ちゃんにまでなった古代とはモノが違う。今この〈ヤマト〉の操舵長として航海組のクルーを仕切る立場にあるのも、競争を勝ち抜いてきた結果なのだから、闘争心で他人に引けを取るようなことがあるはずがない。

とは言っても、それは〈ヤマト〉のクルーの誰でも同じだった。何しろこういう船だけに、乗り組んでるのは血の気の多い人間ばかりだ。喧嘩もどきの騒ぎがあると聞きつければ、すぐこうやって集まってガヤを作るのがその証拠。内窓に取り付いている者達は皆、『すげえすっげえオレこんなの見るの初めて』などと言って喜んでいる。

それも当然であるだろう。〈エイス・G・ゲーム〉か。まったく、ワイヤーアクションのカンフー映画か、テレビゲームの格闘ものをナマで見ているかのようだった。古代と加藤が楕円形の空間を縦横無尽に駆け巡る。組んではほぐれ、互いの身を投げ飛ばし合い、宙を飛び交うその姿はまさに二体の天狗だった。こんなものは他所(よそ)ではそうそうお目にかかれるはずがない。思いがけず立ち会うことのできた者らがヤンヤと叫ぶのは道理だった。

しかし――と思う。〈観客〉どもの目を奪うのは、何より古代の闘いぶりであるようだった。『あっ、危ない!』とか『そうだ、行け!』などと送られる声も、明らかに古代寄りであるとわかる。決して古代が優勢というわけではない。むしろ押され気味であり、もう少しで敗けて終わりというピンチは古代の側に連続している。だがそのたびに驚くような身のこなしで古代は加藤の攻めを躱し、ときに相手をもう一歩で敗けに追い込むチャンスを掴んでみせるのだ。いつしか森も、古代に対して声援を送るようになっていた。

あれが本当に闘争心に欠けると言われた男なのか? とても信じられなかった。いや、普段を見る限りでは、相変わらず気合いだの根性だのといったものはまるで持ち合わせなさそうなのだが、窓の向こうにいま見る古代はまったくの別人だ。

野次馬達が血を沸かせて叫ぶのも、古代が見せる闘志に反応するからだろう。でなければ場がこのように盛り上がるはずがない。

数日前まで疫病神と避けられて、白眼視を受けてきた古代。今も決して信頼を得ているとは言い難い。しかしそれでも、クルー達の古代を見る眼は確実に変わっているようだった。この対決を見守る眼にも、それがはっきりと表れている。加藤は最初に無茶な宣告を突きつけたが、まさか本気で言った通りにする気なのか? 古代はどうするつもりなのだ? 最初はすぐにもやられてしまいそうに見えたが、今はもうわからない。ひょっとして逆転勝利と言うことも――古代が勝ったらどうなるのか何も決まってなかったようだが、もしも勝ったら? 逆に加藤が『死ね』と言われることになるのか?

 ういう興味も決してなくはないのだろう。だいたい、自分や島や太田と同じく展望室から追い出された人間は特に、今の加藤のやり方にかなり反感を持っていた。仮にも上官に対して何を。何から何まで無茶過ぎはしないか、などと……それがゆえにここでは古代を贔屓目(ひいきめ)に見る空気が元からあったのだ。

けれども違う。それだけではない。ここで誰もが本当に見定めようとしているのは、古代が真にこの船の航空隊長にふさわしいかだ。

戦闘機隊の隊長と言えば船の護り神であり、地球へ帰れば英雄と呼ばれることになる男。冥王星で戦うとなれば航空隊が出ることは、クルーの誰にでもわかる。〈ゼロ〉のパイロットががんもどきではとても勝てるものとは思えず、イスカンダルにも当然行けない。

タイタンまでは、誰もがそう思っていた。古代が非武装の輸送機でガミラスを墜としたなどという話を信じる者はいなかった。しかし今は変わっている。誰もが古代を『ひょっとしたら』という眼で見始めている。

古代進が頼りになるなら、不可能を可能に変える男なら、〈スタンレー〉の攻略にもマゼランへの旅にも希望が持てることになるからだ。地球と地球で待つ人々を救えることになるからだ。この勝負がどう着いて、古代と加藤がどうなるか、だから見届けなければならない。

そう考えて、森はつまりこれが加藤の狙いなのだろうかと思った。この一件は間違いなく、艦内じゅうにすぐさま話が知れ渡る。古代から闘志を引き出し隊長として役立つ男に仕上げると同時に、航空隊は〈スタンレー〉で戦うことに怯みはしないという姿勢を他のクルー達に示す。地球政府の突然の発表に艦内が動揺している中で、まだ指揮官と呼べない古代に代わって加藤が取るべき行動として選んだのがこれ――。

と言うことなのか? 島も同じ考えなのかと思って森は元は戦闘機に乗るはずだった男を見た。島はニヤニヤ笑いながら窓の向こうのゲームを見ている。

そうだとしても、と森は思った。勝負が着いたら加藤は一体どうする気なのか。宣言通り古代に自決を強要するつもりなのか? それにもし自分の方が敗けになったら?

島はそこまで見極めたうえで加藤の考えを『わかった』と言うのか? どうなのだろうと森は思った。わたしには、どっちが勝っても引っ込みがつかなくなるとしか思えない。船務科長――クルーのマネージャーとして自分が割って入るにしてもこんなものどうすりゃいいかわからないが……。