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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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楕円の道場



「なんだ、こりゃあ……」古代は言った。「屋形船か?」

中に入って見渡して、出たのがその感想だった。左舷側の展望室は、前に入ったことがある。だが右側が畳敷きになってるなんて、今の今まで知らなかったことだった。何しろ〈ヤマト〉の艦内なんて、誰にも詳しく案内をしてもらったことなどない。山本は訓練でシゴくばかりで、用のない場所を教えてくれることはなかった。

今、古代は柔道着を身につけ帯を締めている。この服を投げつけられて『着ろ』と言われ、タイガー隊に連れられやって来たのだから半ば予想はした光景だが……しかし艦内に畳部屋とは。

日本人が造る基地にはたいてい畳の道場はある。だが大型戦艦と言えど、船の中に設けられているのなんてこれが唯一じゃないかと思った。それにしても見た印象は、やはり道場と言うよりも屋形船かお座敷列車。

本来は道場でなくクルーの団欒の場なのだともわかる。今もあちこちに数人ずつ座り込んでたむろしていた者達がいる。古代はあきれ半分に眺めて、向こうの端に見知った顔がいるのに気づいた。島と森と、そしてもうひとりなんとかいうのが三人で、何事だという顔をしてこちらを見ている。

その三人だけじゃない。室内にいた者みんながみんな驚きの眼を向けてくる。そりゃ殺気立ったのがいきなりガヤガヤ入ってきたら驚くのが当然だろう。

その先客をタイガー乗りらが押し退けるようにして、古代は部屋の真ん中へと促(うなが)された。誰もが気迫に押されたように、抗議することもなく立ち上がってどきながら、一体何が始まるんだという顔をして古代を見てくる。

いや、部屋の中だけじゃない。外にもだ――楕円の広間は外周を窓でグルリと囲まれていた。展望室なのだから船の外向きに窓があるのは当然だが、内側向きにも窓がズラリと並んでいる。

中で試合をするようなとき、そこから人が見物できるようにしてあるのだろう。その内窓が、今まさにその目的に使われようとしているのだ。

部屋の外に今ゾロゾロとクルーが集まっているのがわかった。何も関係ないはずの者らが、興味シンシンというようすで窓にピッタリへばりつき、押し合いながらこちらを覗き込んでいる。

航空隊が何事か始めたらしいという噂がたちまち広まったのに違いなかった。島や森もタイガー隊に追い出された後、すぐ他と一緒になって窓に張り付いたのが見える。

なんだなんだ、とまた思った。タイガー隊の者達も、あきれたようにギャラリーを見やる。彼らにしても見物人が群がるなんて予想外のことなのだろう。ただひとり、加藤だけが泰然として畳の上に立っていた。古代と同じく道着姿。

一体これから、ここで何をしようと言うんだ? 古代は思った。どうやら加藤と柔道でも取っ組まされるようだが、しかし……。

加藤の道着。いかにも使い古した感じだ。対してこちらはさらさらの新品。訓練生の時代に柔道もやらされたが、もう何年も稽古なんかしていない。

加藤がどの程度の強さなのかは知らない。だがどうであれ、おれが勝てるわけないだろう。一方的にやられるだけに決まってる――そう考えて、古代は山本に眼を向けた。加藤が何をする気なのか山本なら察しがつくか、と思ったが、しかし首を振ってくる。《わたしにもわかりません》という表情。

そう言えば、とまた思った。いつだったか山本は、タイガー隊が道場でかるた取りをやってるなんて話をしていたことがあったな。あのとき言ってた〈道場〉ってのがここなわけか……まさか本当に畳の道場だったとは。と言うことは、もしかして――。

ひょっとすると、かるた取り? いや、まさか。この状況でそれはあるまい。加藤がその気だったとしても、これではギャラリーが許さんのじゃないか。そんな見た目に地味な勝負……内窓からこちらを期待ワクワクと見ているクルーを眺めて思った。たちまち膨れてどう見ても百人以上になっている。

〈ヤマト〉クルーの一割が集まってきてしまっているのだ。ひょっとしたら宇宙の中で船が右にちょっと傾いているかもしれない。

これはやはり、と古代は思った。この百人の前でもっておれをギタギタに叩きのめし、晒し者にする気なんだ。他に考えようがあるか。

そうだよなあ。おれなんかが隊長なんておかしいとみんながみんな思ってる。こうなるのが遅かったくらいのものかもしれない。おれをボコボコにしたうえで、言う気なんだろ。『艦長やっぱりこんなのが指揮官なんて有り得ません。こいつは外すか、山本の下にしてください』と。

その方がいいかもしれないな、と古代は思った。だいたい何しろおれなんて、このまま戦場に出て行ったら、ここにいるタイガー乗りの誰かに背中を撃たれかねない。それに比べりゃ今フクロにされた方が……。

マシなんだ、とそう思った。タイガー乗りらが部屋を出て、古代と加藤だけ残される。山本も気がかりそうに振り返りながら出て行った。

楕円の道場にふたりだけ。これから何をやるにせよ、審判を勤める者はない……と言うことはつまり、と思った。ルール無用のデスマッチか。喧嘩試合でおれを潰そうという――。

古代はなぜか、体が軽くなるような感覚を覚えた。