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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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船務士としては



「『何か考えがあるか』って言われても……」

と森は言った。横で太田も難しい顔をしている。島が畳に胡座(あぐら)をかいて、ふたりの顔を交互に見る。〈ヤマト〉右舷の展望室だ。

艦橋ではこの三人が航海要員。あの沖田との話の後で、どうするかまず自分らで話し合おうということになってこの部屋に降りてきたところだった。

クルー達の憩いの場、及び柔道などの道場として使われるこの畳敷きの広間は、長径20に短径10メートルばかりの楕円形だ。ほぼ百畳の広さの床にいぐさのマットを張って日本間ふうにしつらえてある。

楕円の和室なんて変だという意見がもしあるならばおっしゃる通り。でもそのように造っちゃったものはしょうがない。森達三人は艦首側のいちばん端に陣取っていた。

「あたしはできるものならば、〈スタンレー〉は叩いていくべきと思っていたわ。〈ヤマト〉が地球に戻るまでに、ガミラス教徒がどれだけ増えるかわからないし……」

「うん」

と、森が言うのに島は頷く。それから太田を向いて、

「で、太田も心情としては〈スタンレー〉に行きたいわけだな。病気の親に希望を与えたいから……」

「まあね」と太田。

「気持ちはわかるが、しかし……」

と島は言った。森も太田も自分と同じく絶対的な迂回派だと思っていたのに裏切られたとでも言いたげだ。

「勝てるなら、の話だろう。何度も言うけど、波動砲で殺っちまえるならおれだって日程日程と言う気はないよ。けどさっき艦長が最後に言った言葉はなんだよ。『今のままでは勝てない』って……勝てないとわかってるのに行ってどうするんだよ」

「あれは、なんと言うか……」太田が言った。「時期を待っているとか何か、そういうことだと思うけど」

「時期? 時期って一体なんだ。一日遅れれば子供がどれだけ死ぬことになるか、わかって時期とかなんとか言うのか? だいたい船が太陽系でまだグズグズしてるから、人類社会がテンパることになったんじゃないのか? なのにこのうえ何を待つって……」

「まあまあまあ」

「『まーまー』じゃない。太田が病気の親のために敵の首を獲りたいってのはおれにもわからなくないよ。だがなあ森。ガミラス教徒を増やさぬために〈スタンレー〉に行こうってのはおれにはどうもな。それ、〈ヤマト〉がやらなくちゃならないことか?」

「それは……だからあたしも勝てないものを無理に行こうと言った覚えは一度もないけど……」

「そうだろ? ガミラス教徒なんて、おれ達がイスカンダルから帰りさえすりゃみんな目が覚めるんじゃないのか?」

「そんな単純なことではないわ。このままカルトをほっておいたら、どんなひどいことになるか……」

さっき相原に見せられた映像を思い浮かべて森は言った。〈ヤマト〉を支持する人間の腕を斧でぶった斬る狂信者。あんなものが今後ますますエスカレートするだろうことを考えたなら――そうだ、決して親との確執ばかりでものを言っているわけではない。冥王星を叩いて行くのは、〈ヤマト〉が数日早く帰る以上に人々を救うことになる。この考えは間違ってはないはずだった。

だが島は言う。「とにかく、〈ヤマト〉のクルーとして考えることじゃないだろう。君は船務科員だ。そのリーダーなんだろう。船の運航をまず第一に考えるのが務めなんじゃないのか?」

「操舵長に言われなくてもわかってます」

「そうか? けどなあ、〈スタンレー〉で戦って、たとえ〈ヤマト〉が勝ったとしてもだ。そのときクルーが百人死んで、三百人がケガするようなことになったらどうする。その後、船をどうしてくかは君の仕事になるんだろうが」

「それは……」

と言った。確かにそんなことになれば、船務科員はキリキリ舞いすることになる。

〈ヤマト〉の乗員は1100人。本家〈大和〉乗組員3300の三分の一だが、このサイズの宇宙軍艦としてはこれでも多めの人数と言える。後の補充ができないことを考えればもっと乗せたいくらいだったが、居住スペースや食料の供給、水や空気のリサイクル能力などの限界から今の数字にまとまった。

そこからもし死傷者が400人も出てしまったら? 残り700人の中から多くをケガ人の看護に当てねばならなくなるだろう。そしてケガ人が動けるようになるまでの間、〈ヤマト〉は残りの人数で動かさなければならなくなる。つまり半分の550で。

その者達にかかる負担――半数で船を動かすと言うだけでも大変なのに、その人数で船を修理し、血に汚れた艦内を掃除し……クルーの誰ひとりとして、満足に休める者はいないことになるだろう。一週間もそれが続いて皆が疲れ切ったところで敵に襲われでもしたら――。

冥王星で勝ったとしても、〈ヤマト〉はそこで沈むことになりかねない。つまり、たとえ勝てるとしても、何百人もの死傷者が出るのが予想されるなら戦うのに反対すべきであると言うのが船務科員の立場だった。戦闘の後始末にいちばん苦労させられるのが自分達でもあることだし……。

〈ヤマト〉は決して戦うための船ではない。イスカンダルに行くための船だ。船務科員は他の誰よりそれをよく知っておかねばならないのだった。

あらためて島に言われるまでもない。森はもちろんわかっていた。決して無理を押してまで遊星を止めに行くべきと考えているわけではない。

どちらかと言えば、島以上に日程優先という考え方だった。先を急がねばならないのは、島のように子供を救うためではない。それが自分の仕事だからだ。九ヶ月で戻れと言うのが定められた日程だからだ。

運行管理要員としては、決して間違った考えじゃなかろう。目標を与えられたらそれを達成すべく努める。とりあえずは己の役目をまっとうするのを第一にして何が悪い。

森は政府の〈ヤマト〉を送り出した者達は、なんだかんだ言っても人類と地球のことをちゃんと考えているものだと信じていた。わたしは両親とは違う。ガミラスが神の使いで人を滅ぼしに来てくれたが、自分達だけ助かるなんておかしな教えを信じたりしない――自分で選んだ正しい〈教え〉に自分は従っているのだと、心のどこかでいつも考えていたように思う。

旅に遅れが出るのであれば〈スタンレー〉は迂回する。死傷者が多く出ると予想されるなら戦闘は避ける。船務科員としてはこれが当然の考え方だ。ましてや勝てるかどうかさえわからないと言うのであれば――。

ならば日程を守るべき。船務士としての自分はそう判断してきたし、これまではそう言ってきた。

なのにそれが、今になって――なぜか急に、古代進の姿が頭に思い浮かんだ。三浦半島に生まれ育って、あの日に親と住む家を失くしてずっと迷子でいるような顔した男。

どういうことだ。あの男なら、きっと敵を倒してくれる――そんな期待でも自分はしているのだろうか。まさかあ。やっぱりあんなボンクラ――。

艦橋裏の展望室でさっきあいつと出くわしたときのことを思い出して考える。今日はずいぶん一日が長いような気がするが、あれはほんの三、四時間前だ。一体どうしてあんな男にわたしはあんなこと言ったのだろう。まるで弁解するみたいな口の利き方して……。