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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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指揮官ならば



古代はこれまでこの〈ヤマト〉航空隊の隊長と認められていなかった。

特に航空隊員からは。タイガー隊の隊長である加藤が古代を無視し続け、口を利いていないのだから、その下にいる者達が誰も隊長と呼ぶはずがない。それでそのまま来たものが、急に『今からやっぱりあなたが隊長』なんて言ってもどうにもなるか。

トレーニング室から古代は運動服のまま、航空隊の部屋まで連れて来られてきて、黒地に黄色のパイロットスーツの隊員達と向き合わされた。首にはタオル。手にはスポーツドリンクのボトル。

その格好のまま言った。「えーと、その、なんだって言うの?」

パイロットらが一斉に、『ダメだこりゃ』という顔をした。

加藤が言う。「軍司令部が地球の市民に、『〈ヤマト〉が波動砲を撃つ』という発表をしたんです。冥王星を吹き飛ばし、それから太陽系を出る、と」

「ええと……」と言った。「それ、『できない』って言ってなかったっけ」

「できませんよ」

「できるようになったの?」

「できません」

首を傾げた。一体全体何がなんだか、古代にはサッパリわけがわからなかった。それに今まで自分のことをシカトしていた〈部下〉達が、急に《隊長なんだろう。ならばなんとかしろよ》という顔で見る。これもまったく理解できない。

「ごめん。事情が呑み込めないんだけど、それでおれにどうしろって言うの?」

「それは……」

と加藤。パイロットらもみんな戸惑い顔になった。

どうやら誰よりも加藤自身が、おれをここまで引っ張ってきながら何をさせるという考えもなかったらしいなと古代は思った。トレーニング室からこの部屋まで歩いてくる途中でも、船のクルーがみな動揺しているらしいようすが窺えたが……『〈ヤマト〉が波動砲を撃つ』との発表があっただって? それ、そんなに大変なことなのか。

古代にはよくわからなかった。戦闘要員と航海要員が対立して、冥王星を〈スタンレー〉と呼んで行く行かないと揉めていたのは知っていたが、自分には関係のない話のような気がしていた。いや、関係なくないのか。あの森という女が言ったな。〈スタンレー〉へ行くとなれば、航空隊が基地を探す任務に就くことになる。それはあなたに死ねと言うのと同じ……。

と言うのは一応わかってもいたが、古代にとっては自分が隊長だというのが何より問題だったのであり、『なんでおれが』という気持ちしか持てずにいたのだ。古代進よ、お前だって軍人であり、パイロットだ。戦闘機が操れるなら、戦いに行け。骨は拾ってやれないが、人類の存続のためだ。死んでこい。

と言われたら、イヤでもハイと応えるしかない。だからそれはあきらめるけど、『指揮を取れ』ってのは話が別だ。まして自分を認めるどころか、シカトしている部下達の……と、思っていたのがここへ来て急に風向きが変わったようだが、なぜだか話が見えないのではどうしていいかわからない。

それは対する隊員達もみな同じなようだった。このおれを見て、やっぱりこれが隊長なんて有り得ないとあらためて思ってるのも見え見えだが、その一方でひょっとしてもしかするともしかするんじゃないかななどと考え始めているようないないようないないような。

どうにも難しい空気だった。一同の眼が、だんだん加藤の方に集まる。考えあってこいつを連れてきたんならその考えを見せてください、とでも言いたげな顔をして。

「隊長」と加藤は言った。「もし〈ヤマト〉が〈スタンレー〉で波動砲を使うとなれば、おれ達航空隊員がどうなるかはわかってますか」

「いや。知らないけど」

としか応えようがない。隊員達の視線が突き刺さってくる。

「そうですか。おれ達は地球を出る前に、軍や政府の偉い人達の訓令をさんざん受けてきました」

「うん……」

「この〈ヤマト〉は元々は、エリートが逃げるための船です。ダイヤに金塊、ゴッホの絵なんかザクザク積んで、民を見捨てて行く船のね。宇宙でカネがなんの役に立つと思うのだか知りませんがね、毎日キャビアやシャンパンや葉巻をやって旅するつもりだったみたいですよ。おれ達はそんな連中を護って死ぬためのパイロットでした。イスカンダルへ行くことになったが、任務そのものは変わらない。おれ達は船を護って死ぬためにいる」

「いや……」

「ですがそれはいいでしょう。人類のためならば、おれの命など惜しくはない。ですが政治家や役人は、人類の存続なんか考えてません。やつらは自分のことだけです。イスカンダルより冥王星を叩くことを〈ヤマト〉に対して期待している。〈スタンレー〉に〈ヤマト〉が行けば、百の船に迎え撃たれる。おれ達タイガー乗りの役目は、その敵から〈ヤマト〉を護って死ぬことになった――」

「え? いや、でも……」

「バカげてるでしょう。できることかできないことか、考えてから言えと言いたい。けれど政府のお偉方は、何も考えてなかったんです。波動砲が完成すれば冥王星が撃てるはずだ。ワープ船が〈ヤマト〉一隻しか造れないなら、搭載機隊に護らせよう。その後はイスカンダルへ行かすもよし、一度戻して逃亡船にするもよし……うまくいったら自分の手柄、失敗したら沖田のせい。でなけりゃ、戦闘機乗り達の根性が足りなかったせいであって、決して自分らに落ち度はない、とね。まるっきり昔の日本の皇国軍と同じですよ。とにかく撃墜王の諸君、死んでも船を護り抜いてくれたまえ。すべては君らの頑張りに懸かっていると言ってもいいのだ」

「ああ……」

と言った。それ以上に何も言うことができなかった。古代は加藤から眼を移し、パイロットらを見渡した。一応は自分の部下である者達。

加藤は続ける。「〈スタンレー〉で波動砲を撃ったなら、〈ゼロ〉も〈タイガー〉も全機がカミカゼ特攻機にならねばならなくなるでしょう。〈ヤマト〉がワープできるようになるまで船を護って闘い続け、タマが尽きたら敵に突っ込む。それでどれだけ敵さんを道連れにできるかわかりませんけどね――まあ、無理です。〈ヤマト〉は確実に沈みますよ。おれもあなたも死んでおしまい。地球人類も絶滅確定」

「まあ……」と言った。ようやく、ほんの少しだけ、話が見えてきた気がしてきた。「それは……」

「わかるでしょう。今の地球の要人に、マトモなやつはいないんです。大なり小なり頭がおかしくなっちまってる。奇跡は願えば起きるもんと信じるようになっちまってる。きっとおれ達が死んだとき、女神様かなんかが出てきて言うと思ってるんでしょう、『必要なのはこちらの金のコスモクリーナーですか? それともこっちの銀のコスモクリーナーですか? 〈ヤマト〉の犠牲に報いるために、両方みなさんに上げましょう』とか――」

「ああ……」と言った。「だろうね」

笑えない冗談だった。しかし加藤の言う通りなのだ。それが古代にもよくわかった。

地球人類の社会がもうガタガタなのは、古代も知らぬわけではない。火星へ行けば徹底抗戦派の軍人が〈十億玉砕〉を叫んでいる。彼らは〈メ二号作戦〉とやらで、奇跡が起こせると本気で夢見ていたと言う。