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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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沖田の裁量



「そうだ。おそらく、こういうことになるだろうと思っていた」

第一艦橋で沖田は言う。報せを聞いて集まってきた艦橋クルー達の前にゴンドラで降りてくるなりそう言い放ったのだった。

「だから何も問題はない。すべてわしの狙い通りに進んでいる」

「ちょ、ちょっと待ってください!」真田が言った。副長という立場を忘れてしまったように、「まさか、波動砲を使う気ですか? しかしあれは――」

「使わんよ。あれは使えん。だから使わない。それはわかりきった話だ」

「ですが、今のニュースですと……」

「それは軍と国連が勝手に民衆に言っただけだろう。この〈ヤマト〉に向かって直接『使え』と言ってきたわけではない。まあ、たとえ言われたとしても使えんものは使えないがな」

「ではもし、軍から正式に『撃て』と命令が来たとしたら?」

「拒否するよ、わしの裁量でな。だからそう言っとるじゃないか」

こともなげに言う。本当に、事態がこう進むのを予見していたように見えた。クルーは皆アッケにとられて沖田の顔を見るしかない。

「う、撃てないものは撃てない……」真田が言う。「遂行不能な命令は遂行不能……そういうことですか」

「そうだ。しかし相原よ。もし万が一地球から『撃て』と命令が来たとしても、間違っても本当のことを応えるんじゃないぞ。『ハイわかりました撃ちます』と打つのだ」

「は?」と相原。「は、はい……」

「しかしそれでは本当に命令違反になるのでは?」

と南部が言った。撃てるものなら冥王星をやっぱり吹き飛ばしたいらしい。沖田がそれを可能にする機略を編み出してくれるのではとちょっと期待もしたような顔だ。

しかし沖田は応えて言った。「フン、実戦は命令すればその通りになるものでないさ。要するに勝てばいいのだ。この〈ヤマト〉でガミラスにな」

「今の作戦に変更はないと?」新見が言う。「あれのままでやるんですか?」

新見が沖田に言われるままに立てた作戦。しかしそれは、名付けるならば〈出たとこ勝負作戦〉とでも呼ぶべきものだ。冥王星に何が待ち受けるかは不明。だからとにかく航空隊に核を持たせて送った後は、送った後で考えよう。

さすがに無謀ではないか、と考えている顔だった。作戦は作戦通りになどいかない。どうせ臨機応変になるというのはもちろん沖田の言う通りにしても……相手にするのは敵の本拠地冥王星。これまで幾多の艦隊が近づくことも敵わずに、散っていったところなのだ。

そこへ沖田は〈ヤマト〉一隻、波動砲なしで向かおうと言う。地球からは『波動砲を撃て』と半ば直接言われたようなものなのに。

「そうだ。地球がなぜあのような発表をしたか考えてみるがいい。軍司令部はたとえ嘘でもああ言わねばならなかったのだ」

沖田は言って、部下の顔を見渡した。真田に徳川、島、南部、太田、相原、森、新見……みな優秀な選り抜きの士官だ。それぞれの分野のエキスパートであり、島以下には特に若さを求めての人選になった。〈ヤマト〉のクルーを束ねる者は若い人間でなければならない。〈ヤマト〉が帰還したのちの、地球の未来を切り拓いていく者なのだから。

「地球は〈ヤマト〉が冥王星を撃てないことを確(しか)とは知らん。〈ワープ・波動砲・またワープ〉と連続してできないのなら砲撃は不可で、できる望みが低いことは一部の者は知っているが、我々はテストの結果を地球に伝えてないからな」

「はい」

と相原が頷いた。たとえば《トロ・トロ・トロ》などと電信を打って、それが『冥王星砲撃可能と確認せり』という意味だとしておけば、地球は何も焦(あせ)ることなくあの星が宇宙の塵と消えるのを待てばいいことになる。しかし〈ヤマト計画〉では、その方法は採らなかった。波動砲とワープをテストし、連続使用が可能とわかれば、冥王星を吹き飛ばしてからマゼランに向かう。しかしそれがダメなようなら、冥王星は置いてすぐ太陽系を出る。テストの結果を地球に伝えることはしない。

冥王星は地球から望遠鏡で見えるのだから、消えてなくなればすぐわかる。トロトロなどと打たなくていいのだ。

波動砲とワープを連続させるのはまず無理と、軍や国連の内部では一部の者が知っていた。しかしテスト結果を見ねば、本当のところはわからない。もし砲撃が可能であれば撃ってくれと、出航前に〈ヤマト〉は軍から重ね重ね言われていたのだ。

当然だろう。冥王星に生物でも確認されているならともかく、今の地球の状況で悠長なことは言ってられない。地下都市では日に日に水の放射能汚染が深まっている。人々はコップにガイガーカウンターを当て、数値が徐々に増えていくのを見ているのだ。

なのにそれを飲まねばならない。男達は妻に飲ませ、子がいるならば子に飲ませ、年老いた親にも飲ませ、何もわからぬ犬や猫にも、鉢の花にも与えねばならない。水を摂らずに生き物は生きていけないのだから……。

どこに希望があるだろう。遊星投擲を今更止めても、水の汚染は止まらない。放射能を除去できるのは、〈ヤマト〉が持ち帰るとされるコスモクリーナーだけだと言うが……。

「〈スタンレー〉を叩かずに〈ヤマト〉が外へ出て行ったとき、人は希望を持てると思うか。無理だな。人は、〈ヤマト〉は逃げたに決まっていると言うだろう。そんな船はそもそも実在すらしない、そうに決まっているとさえ言うだろう。多くの民(たみ)がガミラス教のもとに走る。それを止めることはできん」

沖田は言って森を見た。森がカルトの家に育ち、この戦いに身を投じたのも両親との確執からだと知っている顔だった。そして森が、地球人類を救う使命に疑問を感じていることも……生きるのをあきらめている無気力な人々。麻薬やギャンブル、テレビゲームに現(うつつ)を抜かし、ガミラス教の誘いに乗って易々と洗脳される、そんな地下都市の人間達を救ってどうする。そんな価値があるのかと思わずいられないことを……森にとって本当の敵は人類の中の狂信者であり、〈ヤマト〉は逃げたか居(い)もしないかだと言って死を待つ以外には何もしない者達なのだと。

「軍も国連もそれを知っている。冥王星を潰さなければ、やはり人類は滅びるのだ。だから言わねばならなくなる。『〈ヤマト〉は居る。逃げはしない。必ず地球に戻ってくる』とな。しかし民衆の理解を得るには、証拠を見せなくてはならん」

「証拠……」と真田。

「そう。ひとつしかないだろう? 冥王星だ。あれを消し飛ばしたら、誰も〈ヤマト〉などいないとか、逃げたなどと言う者はない。単純にして強力な証拠だ。波動砲の力が本物であるのなら、〈ヤマト計画〉はイカサマでなく、イスカンダルの話も期待できることになる」

徳川が言う。「確かにそうはなるだろうが、しかし……」

「そうだ。波動砲は使えない。にもかかわらず、あの発表をせねばならない。地球はそこまで切羽詰った状況にあるのだ。人類が存続できるかはこの一年がヤマであり、〈ヤマト〉は帰還に日程通り行けたとしても九ヶ月――しかし〈一年〉と言う数字は、水の汚染を基準にした目安に過ぎん」

太田が言う。「本当の期限はもっと短い……」