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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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難局



「人類は自滅する?」

と藪は言った。機関室ではまだ麻雀の卓が囲まれ、さっきからの勝負が続けられていた。このゲームは始まるとなかなか終わるものではない。

「そう」と面子(めんつ)のひとりが言う。「地球じゃ頭のイカレたやつらがみんな、おれ達に『冥王星を撃つな』と言って暴れてる。これがどんどん増えるようだと、〈ヤマト〉が帰る頃までなんて、とてもとても……」

「もたない」とまたひとりが言う。「かもしれないって話だけどな」

藪は言った。「『かもしれない』って言ったって、そんなやつらまでいたんじゃ……」

さっきはガミラス教問題を伝えていたテレビが今は過激派問題を論じている。〈ヤマト計画〉を支持する者の腕をぶった斬り、〈ヤマト〉のクルーの家族を見つけて殺してやる、日本人をひとり残らず殺してやると叫ぶようなテロリスト。その巻き添えで殺され、ケガをし、家を焼かれる無関係な人々……。

これを受けて叫んでいる者がいる。『なぜですか! なぜ〈ヤマト計画〉なんてものを続けるんです! やめてください! やめてください! 〈ヤマト〉なんて船を造るからこんなことになるんですよね! だったらやめなきゃいけないでしょうが! イスカンダルへは武器のない船で行くべきなんです。そうでしょう! 武器がなければ、絶対に、襲われたりしないんでーす!』

麻雀卓を囲んでいる全員がヤレヤレとばかり首を振った。いちばんタチが悪い狂人は、案外こんなやつかもしれない。むしろまとめて両腕斬ってやった方が、たぶん少しはマトモになっていいんじゃないかと藪も思った。

「イカレたことを喚いてんのはマイノリティだよ」ひとりが言った。「属するミームがメチャメチャだから、これまでマトモな多数から相手にされてこなかったやつらさ。自分のミームが絶対に正しいもんだと思っているし、『迫害されてきた』って妄想ふくらましてるから、この機会に他の人間みんな死ねばいいとするんだ。地球に生き残るのは、自分達だけでいい……」

「そう。都知事の原口なんか、いちばんわかりやすいよな。ヲタクはヲタクだけが生き延びようと考えるし、コミュニストはコミュニストだけ、キリスト教原理主義者は原理主義者だけ、ユダヤ人やクルド人や朝鮮人は自分達だけ、アフリカのナントカ族はナントカ族だけ、なんて具合……歴史上の紛争なんて、みんなそんなふうにして、隣りに住んでいるやつらとやってきてるわけじゃんか。どこでもみんな自分達こそ神に選ばれた民(たみ)と考えてるんだから。殺すよ、そりゃ。今の地球の状況じゃ」

「それが人間……」

「そういうことだ」

「でも」と言った。「今の地球でいちばん強いのと言ったら、日本……」

「そうだ。おまけに、首相があの石崎だろ。あいつが日本人以外絶対救うわけないのは、誰が見たってわかるよな。白人も女は生かして男は殺す。それがあの野郎の〈愛〉だ。日本人でも自分を支持しなかった97パー全部を殺す……」

「外国人にもそれがわかるから、世界中が日本人を殺そうとする……」

「まあその前に、石崎は暗殺されると思うけど。でも似たような政治家はいっくらでもいるだろうし。官僚は自分の身を守る以外何も考えやしないだろうし」

「そんな」とまた言った。「なら、このままじゃまずいじゃないか! 何か手を打たないと」

「そうだけどなあ。そうは言っても……」

とひとりが言う。また別の者が、

「おれ達は機関員だぜ。エンジンを回す以外にできることはないだろう」

藪は言った。「いや、おれ達がと言うんじゃなくて……」

「政府か? まったく無策ってことはないだろうけど……」

またテレビに眼が向けられる。『冥王星を壊すなーっ! 波動砲を使ってはならなーいっ!』などと叫ぶデモのようすが映っている。

「けど、何をやったところで焼け石に水なんじゃないか? そもそも役所に何が期待できるってえの。やつらがまともな仕事をしたことなんかただの一度も歴史にあるか?」

「けどさ」と藪はまた言った。「『波動砲を撃つな』も何も、どうせ撃てやしないんでしょ? なら、それを公表すれば……」

狂った者らも少しはおとなしくなるのでは? そう思った。〈スタンレー〉攻略に波動砲は使えない。それは〈ヤマト〉内部ではもはや周知の事実だった。まして自分は機関員。波動エンジンに触れているため、ワープの後はしばらく波動砲が撃てず、また撃った後、ワープができるようになるまでかなりの時間を要することは日々の勤めからもう理解ができていた。撃つも撃たないもなく、冥王星はどうせ撃てない。現実として不可能なのだ。

〈ヤマト計画〉の反対者はイスカンダルへ行く計画自体より、波動砲で冥王星を吹き飛ばすことに対して『NO』を叫んでいるのだろう。ならば、それができぬと知れば、少なくとも人類が自滅するなどという事態は避けられるのではないか。

テレビがまた言っている。『冥王星には固有の生命があるかもしれないんですよ! それでも星を撃つのですか! あの星の氷の下には液体の形で水があることが、ガミラスの侵略前の探査で判明しているんです。ならばそこに命があるかもしれません! なのに星を粉砕してしまったら、我々はその生物と出会うチャンスを永遠に失くしてしまうことになります。それでいいのですか!』

「ははは」

とみんなが笑った。実は今から十数年前、2015年の〈ニュー・ホライズンズ計画〉以来170年ぶりかと言われる冥王星探査があって、あの星の氷の下に水の海が見つかったというニュースが世を騒がせていたのだった。予(かね)てより木星の衛星エウロパや、土星のエンケラドゥスが氷の下に海がある星とされていたが、冥王星はその仲間だと言うのである。一体なぜあんな場所で水が液体でいられるのか。ひょっとしてそこに生命があるのでは? さらに詳しい調査をせねば――と、言われていたところにガミラスが現れて、その話は棚上げになってしまっている。

しかし、

「いるんだなあ、人間の子の命より、冥王星にいるかどうかもわからない命の方が大切ってやつが」

「そりゃそうだよ。あの〈ぐっちゃん〉もそのクチなわけじゃん。『冥王星を〈準惑星〉から〈惑星〉に戻す』と言って票集めたんだから」

「あはは! 確かに、星を壊したらなんにもならない。けど東京都議会が冥王星を惑星と決めたら〈惑星〉って、それが天文学か?」

「東京都でだけ惑星なのかな」

「いやあ、ヲタクは、あれが神だと思うんだよ」

「冥王星の生物なんて、いたとしてもミジンコじゃないのか」

「それもあれだよ。極限環境微生物マニアって言うのかな。クマムシとかプラナリアみたいなもんが好きと言うか……キモヲタはそういう変な生き物にシンパシー感じるんじゃない?」

麻雀をそっちのけにして機関員らが口々に言う。こんな調子だからゲームが長引くのだ。藪は彼らに「だからさ」と言った。

「波動砲は撃てないことを公表すりゃいいんじゃないの?  冥王星が吹き飛ばされはしないとなれば、変なやつらが騒ぐのも少しは抑えられるんじゃない?」

「え?」