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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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瞬速逆転360度



「〈アルファー・ワン、ツー〉、聞こえますか? これより〈タイガー〉四機との模擬空戦をしていただきます」

シミュレーターの管理室で管制員がマイクに向かって告げるのを、加藤はモニターを見守りながら聞いていた。トリトンの空に海王星とその輪が浮かぶ。黒い雪を吐くヒビ割れた大地。飛び交う六機の戦闘機は、その中ではただの点だ。

「〈ゼロ〉と〈タイガー〉の性能は総合的には互角ですが、戦闘機同士の格闘戦では〈タイガー〉の方に分(ぶ)があります」

新見が言った。部屋の中にいる者達が頷いて聞く。〈ゼロ〉と〈タイガー〉がやり合うと聞いて、広くもない管理室に人がゾロゾロ押しかけてきていた。食い入るように皆モニターを覗き込み、南部なども空戦のことなどよく知らないだろうに眼鏡をかけ直している。

「〈タイガー〉は敵戦闘機の攻撃から船を護るために造られた機種で、そのため〈ヤマト〉に多く積まれている。対して〈ゼロ〉は本来が、対艦ミサイルを抱いて敵の船を襲うための戦闘機です。突っ込みは利くが軽やかな動きはできない……」

南部が言う。「要するに、クルビットとかいう動きはできない?」

「はい。無理にやろうとすれば、機体がヘシ折れるかもしれない。シミュレーターには機体構造の限界もプログラムされているのですから、この模擬戦は〈ゼロ〉の空中分解という形で終わるかも」

「そうなったら、中の人間もタダじゃ済まないんじゃないか」

「ええ」と言った。「死にはしないにしても」

「それでもやるのか?」

南部は言って、加藤に眼を向けてきた。古代に〈ゼロ〉の限界を超えさせ、しかし、機体は壊すなという。矛盾した要求だ。〈ゼロ〉はどこかエビに似たような戦闘機だが、エビは背を反らさせれば折れる。それを承知でやらそうとし、しかし当人に伝えはしない。

加藤は南部と眼が合ったが、すぐにその視線をそらした。モニターを見る。〈ゼロ〉と〈タイガー〉。これはもう、ゲームであってゲームでない。ヴァーチャルゆえに可能となる真剣勝負と呼ぶべきものだ。だが、それでもやらすしかない。危険だからやめようなどと言っていては、闘いに勝つパイロットは生まれない。

今の古代は、どんなに腕が良くてもダメだ。指揮官とは認められない。あれを隊長に戴いて〈スタンレー〉に飛び込んで行けば、皆殺しになって終わる。

〈コスモゼロ〉は航空隊を指揮するための機体として〈ヤマト〉に積まれた戦闘機だ。〈ヤマト〉を護るタイガー隊を後ろで護る戦闘機であり、〈ヤマト〉が攻撃に出るときは先頭に立ってタイガー隊に護らせながら敵に突っ込みをかけるように造られている。だから隊長が乗るのであり、しかし本来の隊長は死んだ。

その代わりは、単に腕の良し悪しで決めるものではあり得ない。自分が〈ゼロ〉に乗るわけにもいかない以上、古代にさせるしかないのだが――。

「今は二対四」新見が言った。「まずは〈アルファー・ワン〉と〈ツー〉にそれぞれ二機ずつ喰らいつかせるものと思わせ、タイミングを見計らって山本機に向かううちの一機に古代を襲わせます。古代はひとりで三機の〈タイガー〉を相手にせねばならなくなる」

南部が言う。「〈タイガー〉三機……」

「ええ。前に〈七四式〉でガミラス三機とやったときは、敵は『相手はオンボロ輸送機だ』とナメていました。タイタンでは十五機に追われましたが、別に腕のいい敵でもなかった。ビームが当たらなかったのは、〈ゼロ〉がポッドを片積みしてヨタヨタ飛んでいたのがむしろ幸いして、狙いがそれてくれたことがあったようです。しかしそこに気づくような腕や経験を持つパイロットがいなかった――」

「古代は今まで腕のいい敵を相手にしてない?」

「そう。だからこそ、逃げの一手でなんとかやってくることもできた。しかし今度は違います。空戦性能は〈タイガー〉の方が〈ゼロ〉よりも上。敵は三機で、全員がトリプルエースパイロット。トップガン三人相手に古代がひとりで勝てるものか――」

前の三回に負けず劣らず、それ以上に不利な状況かもしれないということだった。違いはこれまでは戦おうにも武器がないか機が闘える状態になく、ただひたすら逃げまわるしかなかったのに対し、今は自由に〈ゼロ〉の機首をめぐらしてビームの引き金を引けることだが、容易(たやす)く餌食になるようなタイガー乗りは〈ヤマト〉にいない。

「正面からぶつかり合えば、〈ゼロ〉は〈タイガー〉に勝てません」新見は言った。「もし勝とうとするならば、〈ゼロ〉に限界を超える機動をさせるしかない。〈瞬速逆転360度〉とでも言いましょうか。古代が〈ゼロ〉でクルビットをやってのけられたなら――」

〈タイガー〉三機を相手に勝つかもしれない、というわけだ。それが試される瞬間が、いま訪れようとしていた。部屋にいる全員が、固唾(かたず)を飲んでモニターに見入った。