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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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ジャンケン



「たとえば、〈ヤマト〉でイスカンダルへ行くのではなく、ガミラス艦を何隻か捕獲。それを元にワープ船の量産を図るという考えがありました」

と新見が言った。航空隊のシミュレーター管理室だ。〈ゼロ〉と〈タイガー〉のシミュレーターが並ぶ部屋に隣接し、パイロット達の訓練を見守り、指示が出せるようになっている。今も数名のタイガー乗りが〈機〉を操っているさまが、いくつもの立体画面に映されていた。部屋にいるのは新見の他に、加藤と南部、山本と、さらに数名の航空隊員。南部は〈ゼロ〉と〈タイガー〉の模型を手にして遊んでいる。

それはほっといて、加藤が言う。「で、どっか他の星系に逃げようとしたわけですか。でも『ガミラスを捕獲する』って、〈ヤマト〉一隻でどうやる気だったんですか? それにワープ船の量産なんて、半年かそこらでできるんですか」

「そう。現実的なようで、まるでダメな案でした。やはり〈ヤマト〉はイスカンダルへ行く船として、〈ガミラス捕獲艦隊〉は別に作って運用せねばならなかった」

南部が「行くぞ、合体だ!」と言って、〈ゼロ〉と〈タイガー〉の模型をふたつくっつけ合わせた。「ガシャッ、ガシャーン! 〈ゼロ〉と〈タイガー〉がひとつになるとき、無敵ロボット〈ゼロタイガー〉に変形するのだ。ジャジャジャーン!」

一同が黙って南部を睨(にら)んだ。山本が口をニッコリとほころばせ、けれども目に殺気を込めて南部に言った。「ひとつ、〈ゼロ〉のシミュレーターを試してみますか、一尉?」

「いや、いい」と言った。「ごめん、なんの話だっけ」

「〈スタンレー〉攻略です」と新見。「イスカンダルからコスモクリーナーを持ち帰る。それがまさに雲に手を伸ばすような話であっても、人類を救う道は他にありません。より現実的な選択肢、などというものは考えられない」

一同が頷いた。

「しかし一方、冥王星をこのままにすれば、やはり人類に明日はない。あと一年や十年と言わず、数ヶ月で〈滅亡の日〉が来るでしょう。おそらく〈ヤマト〉の出航が、その期限を縮めてしまった」

航空隊員のひとりが言う。「たとえ〈ヤマト〉が九ヶ月で戻っても滅亡を防げない……」

「そう考えるべきです」と新見。「まず、ガミラスの脅威がある。これまで敵は地球をじっくり嬲り殺しにする手で来たが、今後は一気に殲滅する手でかかってくる見込みが強い。そうなったとき地球に勝ち目は薄いというのがひとつ。もうひとつは、人類自身が内に抱える問題です。気がかりなのはガミラス教徒や降伏論者、陰謀論者によるテロ……」

「その心配を除くには、〈スタンレー〉をやるしかないと言うんですね。それにはおれ達が基地を見つける以外ない……」

「そうです」

と言った。今この部屋の中にいるのは、航空隊の中でも主だった者達だ。まず〈タイガー〉のパイロット。〈ヤマト〉には32機の〈タイガー〉戦闘機が格納される。4機ひと組の八つの編隊。それぞれ〈ブラヴォー〉〈チャーリー〉〈デルタ〉〈エコー〉……といった具合に呼ばれるチームの小隊長ら。そして彼らを裏で支える後方支援組の者達。

新見の言葉に互いに頷き合いながらも、みな表情は固かった。突きつけられた任務の重さと難しさに慄(おのの)いているようだった。

無理もなかった。2機の〈ゼロ〉と32機の〈タイガー〉、ただそれだけの戦闘機で、冥王星全体の二割にも及ぶ白夜の圏を基地を探して飛ばねばならない。各機体の性能ならば不可能ではないと言え、しかしそこには敵がいるのだ。戦闘機に代表される小型宇宙艇の性能では、地球のものはガミラスのそれを上回るとされている。まして〈ゼロ〉と〈タイガー〉は最新鋭の超高性能機。しかし、ものには限度があろうというものだ。

「会敵(かいてき)したらどう戦えと言う気なんだ? 相手は戦闘機だけでも千や二千じゃきかないでしょう。おれ達にひとり当たり百も二百機も相手にしろと言う気ですか」

「それに、対空火器に艦艇……〈タイガー〉じゃデカブツ相手に刃が立ちませんよ」

「て言うか、敵とぶつかったら基地を探すどころじゃないでしょう。基地を攻めるための艦隊にできなかったようなことを、戦闘機でやれなんて……」

隊員らが口々に言う。しばらくして、加藤が言った。

「〈タイガー〉は要撃機です。船を護るための戦闘機だ。このような作戦に向いているとは言えない」

もっともな言い分だった。この作戦は失敗した〈メ号作戦〉そのままだ。冥王星を攻めることのみを考えて編成された特務艦隊。その力をもってしても、ガミラス基地を落とせなかった。なのに、それと同じことを、はるかに劣る戦力でやれと言うのは無茶な話だ。

「何千という敵の迎撃を切り抜けて、ラスボスを見つけ核攻撃? テレビゲームみたいなことを要求されても困ります。命が惜しくて言うんじゃない。地球を救うためならば、死ぬとわかっている作戦でもおれは行くが……」

加藤の言葉に全員が頷く。まさに戦闘機乗りの目だった。命を惜しむ者などいない。生きて地球に帰れるとそもそも思ってすらいない。船を護って死ぬ覚悟、地球のために散る覚悟だ。それを固めきっている。彼らはまさにサムライであり、万の敵を見せたところで決して怯(ひる)みはしないだろう。むしろそんな状況を切り抜けた者が選ばれた。この戦争で戦闘機に乗るのはロシアン・ルーレットだと知っており、銃を自分のこめかみに当て平気で引き金を引くことができる。そうしてまた生き延びれば、むしろチェッと舌を打つのだ。

〈ヤマト〉を護るタイガー乗りはそうでなければならなかった。しかし、だからと言ったところで、この作戦は話が違う。

「〈ヤマト〉はもう何があっても一時帰還はできないんでしょう。替えが利くならおれ達は死んでいいですよ。しかし補充ができないのなら、ここで全員死ぬわけにはいきません」

と加藤。南部も「うん」と頷いた。

新見は言う。「艦長は、敵の数は心配するなと言っておられます。我々が〈スタンレー〉に行くときそこに敵はいない。いても、たとえば戦闘機なら、せいぜい百機というところだと」

「なぜそんなことが言えるんです?」

「わかりません。まだ教えるわけにいかないということなので……それでもわたしとしては、艦長のその考えに基づいて作戦を立てねばなりませんでしたが」

「ふうん」と言った。「百機ね」

考えているようだった。34対100。それが本当なら、ひとりが3機殺ればいい――単純に計算すればそうなるが、実際にそう簡単に事が運ぶはずがなかった。まず4機にまんべんなく12機ずつ向かってくるわけではあるまい。しかしそれは置くとして、こちらが先に1機殺られてしまったらどうする。それで3対12――ひとりが4機相手にしなければならなくなる計算だ。2機殺られたらひとりが6機。3機殺られたらひとりで12機。

「ねえ新見さん。おれとジャンケンしてくれませんか」

加藤が言った。新見は「は?」と聞き返したが、加藤が拳を出しているのを見てジャンケンポンと手を出した。加藤がパーで新見がチョキ。