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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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麻雀



『信じる者は救われるのです。何も心配は要りません』

ヒラヒラした衣(ころも)をまとった女が語る姿がテレビに映っている。しかし映像は乱れがちだ。天王星の軌道辺りまでくると、ガミラスの通信妨害によりテレビ放送などの受信も難しくなる。藪は機関室員仲間と共に、麻雀卓を囲みながら画面に眼を向けていた。映っているのは、〈テレザート星のテレサ〉とかいう異星人のお告げを受けたと称する宗教の教祖だ。

卓を囲むひとりが言った。「なんだ? またガミラス教か。くだらねえ」

「こんなもん信じるやつの気が知れねえな」

と別のひとりが応じる。テレビやラジオが流す音に、『ガミラスは神の使いだと信じよう』と語る声が混じり出したのはいつからだろう。最近はそのテのカルトに放送局が乗っ取られたようになっているらしい。多くの人はそれと気づけばテレビを消すかチャンネルを変えるが、

「けどやっぱり地球じゃ信者が増えてんだろうな」

とまたひとりが言った。それを受けて「そりゃそうでしょう」と応える者が、

「おれの姉貴がダンナと一緒にガミラス教に入信しちゃって、子供連れて出家(しゅっけ)だよ。今頃どうしているんだか」

「おやまあ」

「やっぱあれだよな。このままだと親の自分達よりも我が子が先に放射能で死ぬ。その現実に堪えられなくて……その心理にカルトがつけ込むわけだ。子が死んでも魂が高い所で甦ると言われたら、その教えにすがりつく」

「そうか。気持ちはわかるよな」

藪はテレビの画面を見た。天女の羽衣といった感じの服をヒラヒラさせた〈テレサの預言者〉とかいう女。けれども顔は、その辺にいくらでもいそうなおばちゃんだ。短足メタボで鳥の巣パーマ。恍惚とした表情でなんか言った。

『ワタシはメーテル』メーテルという顔じゃないなあ。日本語で話してるからたぶん日本人だろうし。『若者にしか見えない、時の流れの中を旅する女……』

一同がしばし黙り込み、見てはいけないものを見てしまった顔で首を振った。

「やっぱ、これを信じるやつの気が知れねえ」

「宗教なんてこんなもんだ」

「そうだけどさ」

今、地球の地下都市では〈ガミラス教〉と呼ばれる宗教が広がっている。その信者は年々増えて、生き延びている人口の一割にも達するものとされていた。この〈ヤマト〉が出発した時点でだ。

ただし、ひとつの宗教ではない。『ガミラスによって地球人類は滅びるが我が教団に入る者だけ救われる』とするカルト集団が多くあり、信者を奪い合っている。これを総して〈ガミラス教〉と呼んでいるのだ。あるカルトはガミラスを神の使いとし、人は死んだら魂のみが高い世界へ行くと言う。別のカルトはガミラスを悪い宇宙人とするのだが、善い宇宙人――たとえば〈テレザート星のテレサ〉のようなのが別にいて、テレサに任命された〈メーテル〉である自分だけが人を宇宙列車に乗せて約束の星へ連れて行けるのだとかなんとか言う。おばちゃんのチリチリパーマはどうも『鳥の巣』と言うよりも、海苔巻き型の帽子でも頭に被っているような奇妙な形にセットされていた。これはどういう趣味なのだろうか。

主張がバラバラなのだから、彼らは互いに対立し、殺し合いまで起きている。日に〈万〉の単位でだ。施設に火を放ち合い、十人が棒を振るってひとりを襲う。別の教えを信じる者は悪魔に憑かれた者なのだ。許せば自分が救われなくなる。だから殺すしかないのだと叫んで。

きのうまで親しかった隣人が、もう人には見えなくなる。政府も悪魔と通じている。だから殺せ。殺せ。殺せ。他には何も信用するな。

どうせ多くの人が死ぬ。あと数年ですべて死ぬのだ。だから今、百や二百を殺したところで何も変わるところはない。これは神のためなのだ。それが人類のためなのだ。だから殺すのをためらうな。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。

そう叫んで彼らは互いに殺し合い、とばっちりで関係のない人間までが死ぬことになる。いや、関係ない者などいないのだ。カルトから見ればすべてが敵だ。二百年前に〈オウム〉と名乗る集団が自分ら以外すべてを敵とみなして殺していいものと考えたように、彼らは殺す。政府のビルにテロを仕掛け、市民の街を暴動で荒らす。後にはただ、麻雀牌をかき混ぜたように、無数の死体が転がるのだ。

『神の言葉を信じましょう。〈ヤマト〉なんてものはいません。あれは政府の嘘なのです。騙されてはいけません』

〈メーテル〉に代わって画面に現れた男がそう言った。これもガミラス教だろう。

『神はお告げになられたのです。ガミラスにより地球人類は滅ぼされると。あらゆる抵抗は無駄なのです。なのに〈ヤマト〉。〈波動砲〉。そんなものにすがってどうするのですか。ガミラスに立ち向かうのは、神に刃向かうも同じこと。そうです。勝てはしないのです。政府を信じてはいけません。宇宙戦艦〈ヤマト〉など、存在すらしないのですよ。すべて人々を惑わす嘘です。神はそうワタシにお告げになりました』

「やれやれ」と、卓を囲むひとりが言った。「おれ達、いないことにされちまった」

『あなたを救えるのは本当の神が認めたワタシだけです』テレビの中の教祖は続ける。『神は人類を試されています。穢(けが)れた者を滅ぼした後で、ガミラスは真の姿を現し、選ばれた者を導いてくれるのです。こうしている今もワタシには神の声が聞こえます。〈ヤマト〉などいない、〈ヤマト〉などいない、〈ヤマト〉などいない……ああ、そうです。これほど確かなことが他にあるでしょうか?』

「あるでしょうか、って言われもなあ」とまたひとりが言う。「なんでそんなにおれ達がいないことにしたいんだよ」

「そりゃ、困るもん、こいつらは。人が滅亡しないで済んだら予言が外れたとなるんだからな」

「そうだけどさあ」

「カルト集団はどれもみんな、〈ヤマト〉なんてそもそもいないと言ってるか、いるとしてもガミラスに敵(かな)うわけないと言ってるかだね。『救えるのは自分とこの教えだけ』と謳(うた)っている以上、〈ヤマト〉がガミラスに勝ってはまずい」

「ましてやイスカンダルの話がほんとだったりしてはいけない。コスモクリーナーで放射能が除去されたら、『神の声を聞きました』と言ってた立場がなくなるからね。だからすべては政府の嘘としなけりゃならない」

「それはわかるんだけどさあ」

「『〈ヤマト〉なんて存在しない』。それがいちばん都合がいいんだ。やつらの〈神〉は、やつらが聞きたいことだけ耳にささやいてくれる。だから今のこいつには、たぶん本当に聞こえるんだろうよ、『〈ヤマト〉なんかいない』って」

「わかるけど……」薮は言った。補充員である自分はまだ、この旅について理解できてないところがある。「カルト信者でなくっても、この船の実在を疑っている市民が結構いるわけでしょ。でなきゃ、たとえいるとしてもエリートの逃亡船だろう、とか……」

「そりゃそうだ。大体もともとそうなんだから」

とひとりが言い、また別の者が、