『 2012回あったかも知れない話 』
あれから、65年が過ぎ、私より他にそれを知る者が居なくなろうとしている。
それを告げるための場はもうないが、ここで伝えておくことにしようと思う。
2012年、アメリカ合衆国が発表したことは、「今年、地球が滅亡する」であった。
有名な映画監督、俳優が声を大にして議論した時代で、政治家はそれを阻止するというシナリオが組まれていた。空からの襲撃と、地を爆破することにより、地球を滅亡させようとする地球外生命体がいるという。
そこで、各国は地球を守ることを目標に、生きることにした。人は結束し、古文書をかき集め、現代を守るスーパーマンとして生きることになった。
ある人が、「名案がある」と言った。
「あの国を捧げよう。地球の滅亡を願うなら、自らの死を願う人々の住む国なのだから」
それは良い考えである、と皆、賛成し、すぐに作戦は実行に移された。
ある島国は、珊瑚礁を犠牲にし、そこに「アメリカ合衆国は捧げられる土地」と書いた。
すると、翌年から、アメリカ国民は少しずつ減るようになり、彼らは生き残りを掛けて畑を耕し、牛や豚を育てるようになった。人が死ぬとすぐに海に投げ込まれ、魚介類は巨大に育ち、人々は楽しくなった。
その国を捧げるだけで、世界中が平和になるからだ。
それから、アメリカ合衆国は、地球が滅亡するとは言わなくなった。
生きることは素晴らしい、という国民が増えたからである。
2014年*カンブリア、アジアの中の日本という国が、「地球外生命体が、人類を滅ぼそうとしている」と恐慌状態に陥った。奴らが地震を起こし、どさくさに紛れて人類が食い散らかされるというのだ。
そこで、各国は人類を守ることを目標に、生きることにした。人は結束し、歴史を遡り、過去を探ることに成功した。
「あの国の人々を捧げよう。人類の滅亡を願い、自らの命を捨てる人々の住む国なのだから」
それは良い考えではあるが、と皆、首を捻った。何故、人類が人類の滅亡を願う必要があるのだろうか。
すると、翌年から、その国の国民は少しずつ増えるようになり、生き残りを掛けて殺し合いをする者は減った。人が死ぬとすぐに海に投げ込まれ、魚介類は美味しく育ち、人々は楽しくなった。
その国を捧げるだけで、世界中の料理が美味しくなるからだ。
それから、日本は、人類が滅亡するとは言わなくなった。
生きることに飽きた、という国民が減ったからである。
私が知るのは、2つの国だけであるが、その時代を生き抜いた者は既に死んだことにされている。かつての仲間が生きているのか、どこでどうしているのか知る由もないが、これを読んで頷く者がいたとしたら、私に連絡して欲しいと思う。
現在の電話番号は、0120-2014-1122である。
作品名:『 2012回あったかも知れない話 』 作家名:みゅーずりん仮名