腐った桃は、犬も喰わない
「あ、でも一千万円なんてのは滅多に入んねーよ? 大抵百万円台だしさ」
百万でも相当な値段だと思うのだが。桃井さんがトマトを口に銜えたまま、ビニール袋の中へと手を突っ込む。ガサガサとビニールのかさつく音を暫く響かせてから、人差し指と中指の間に横幅一センチ程度の長方形の紙を挟んで取り出した。何回が折られた紙を、ぞんざいな手付きで開いていく。トマトの汁で手がべたべたなせいか、紙にじんわりと染みが広がって行くのが見えた。
「あー、うー、そうねー。今回は荷物を預かる仕事みたいだ」
「荷物、ですか?」
「うん、そう。じゃあ、荷物取りに行こっか」
二百万の荷物なんて、ろくなもんじゃないだろうと正直思った。
作品名:腐った桃は、犬も喰わない 作家名:耳子