恋の神様
1人の女の子が住んでいた。
男の子は、
自分のペースで物事を取り組み、
「面倒くせぇ」と、言っては途中で飽きて、
すぐに諦めてしまうような子だった
女の子は
何でも一生懸命に取り組み、
「頑張れば何でもできる」
と、言っては、頑張りすぎて
疲れ果ててしまうような子だった。
そんなある日、2人が町で偶然出会った。
良い所も悪い所もお互いにないものを
持っている2人 。
そんな2人が、互いに惹かれあうのに
時間はかからなかった。
男の子も女の子も
毎日が発見で、毎日が真新しく
そして毎日を笑い合いながら楽しく日々を過ごしていた 。
2人で過ごす時間の中で
男の子は最後まで、一生懸命頑張る大切さを知った。
女の子は自分のペースで
無理せず頑張る大切さをを知った。
そうして幾日過ぎただろうか。
2人の会える時間も少なくなり
だんだんと、男の子の心は離れていった。
女の子は悲しかった。
男の子の心が遠くへ行ってしまいそうで、
自分1人だけ置いていかれそうで、
そして、この先1人ぼっちになってしまうような気持ちで怖かった。
そんなある日
男の子は、女の子に別れを告げた。
女の子には理解できなかった。
あんなに毎日が楽しかったのに
なぜ、男の子が女の子の隣からいなくなったのか
女の子には全くわからなかった。
それからの女の子は誰かと出会う事が怖くなった。
誰かと出会い、また別れるのなら
誰にも会わなければいい。
家の中に1人でいれば、そうすれば
こんなに悲しい別れをもう二度としなくてすむ。
こんな思いをしなくてすむ。
そう言って 、家の中に閉じこもり
毎日を過ごしていた。
それをずっと見ていた恋の神様は
見るに見兼ねて、女の子にこんな事を聞いた。
「なぜ閉じこもっているのだ?」
この問いに 女の子は
「閉じこもっていれば
誰にも出会う事はありません」
と、答えた。
すると 恋の神様は
「そうか…
お前はそれで幸せか?」
と、尋ねた。
女の子は
「幸せです
別れる悲しみがありませんから。
あの苦しみがありませんから」
と、答えた。
「そうか
私には幸せに見えなかった。
お前の心が
泣いてるように見えたが、
お前が幸せならそれでいい」
そう言って、消えようとした時
「どうして別れがあるのですか?
どうしてこんなに辛い思いを
しなくてはならないのですか?
この出会いに
何の意味があったのですか?
こんな思いをするくらいなら、
出会わなければよかった」
女の子は今までの思いを全て
恋の神様にぶつけた。
すると、恋の神様は
「本当にそう思うのか?
ならお前に
いいものを見せてやろう」
そう言って、女の子の手をとり
2人が出会わなかった世界へと連れていった。
そこには
男の子と女の子の姿があった。
男の子は、最後まで頑張る事をせず、
全ての事を中途半端にし、
そしていつしか
誰からも相手にされなくなり、
1人で心閉ざしていた。
女の子は 、頑張りすぎてしまい
誰にも寄り掛かれず、
疲れ果て心が折れてしまい
1人で心閉ざしていた。
その姿を見た女の子は言葉を失った。
その様子を見ていた恋の神様は
「今のお前が在るのは
なぜだと思う?」
呆然と立ちすくむ女の子に尋ねた。
「男の子と出会ったからです」
女の子が小さな声で答えた。
「これでも
出会わなければよかったと
そう思うかね?」
恋の神様は静かに尋ねた。
「出会えてよかったです」
と、女の子は声を震わせながら
ポツリと呟いた。
「あの時のお前達には、
互いが必要だった。
しかし
互いの役割が終わった今、
今在るお前達を必要としている
人達の元へ行かねばならない。
ずっと閉じこもっていたら
その人が、お前を探せないだろう?」
恋の神様は
優しい声で女の子に言った。
それを聞いた女の子の目に涙が溢れだした。
そして
「互いの人生に必要な時
必要な時間だけ、その人生は交わる。
そしてそれぞれの役割が終わった時
またそれぞれの道を歩む。
互いの持つメッセージを
相手に伝える為にな」
恋の神様はそう言って
ニコリと微笑んだ。
「だから、たくさんの
出会いと別れをしてきなさい。
そして、たくさんの自分に
出会いなさい。
お前を必要としている人の為に
大きく大きく成長しなさい。
お前を成長させてくれるのは
人でしかないんだよ」
そう言い残して消えていった。
女の子は今の自分が在るのは、
男の子と出会えたからだという事に気がついた。
女の子は男の子との過ごした時間の中に
隠されたメッセージが何であったのかがわかった。
そしてなぜ男の子が、隣にいないのかという事も。
それからの女の子は閉じこもる事なく、
ひとつひとつの出会いと別れを大切にしていった。
例え、悲しい別れであっても。
例え、苦しい別れであっても。
その人が教えてくれたメッセージを胸に
新しい自分との出会いに感謝し、
自分を必要としてくれる人の為に
自分を成長させていった。
そんなある日、あの男の子が
再び女の子の前に現れた。
互いに成長した2人。
互いの人生に、互いが必要だと知ったのだろう。
男の子は女の子の全てを包み込み
守れる程に強く大きく成長し、
女の子は男の子の全てを支え、
何事にも負けない程に
強く大きく成長していた。
そうして2人は、
永遠の愛を誓いながら
幸せに暮らしていった。