二部という漫画家
【著】松田
○登場人物
・漫画家:二部(にぶ)
・恋人
・編集者
・漫画家2:書屋(かきや)
【1】漫画家の部屋。
4人は漫画家の部屋で飲み会をしながら話している。
●漫画家、恋人、編集者、漫画家2はテーブルを囲んで板付き。
漫画2 そうだ二部、おまえ先週誕生日だったな。
編集 そういえばそうだな!
二部 二人共忘れてたのかよっ!
編集 はっはっは、仕事が忙しかったからなぁ。
二部 こいつ、女の誕生日は忘れないくせにな!
恋人 あはは、そうなんですか?
編集 おまえも女だったら忘れてなかったぞ。
漫画2 おれは女でも忘れるわ。
二部 だからモテないんだっておまえは。
編集 言えてる!
恋人 えー? 書屋さんモテそうなのにー。
二部 やめろやめろ、こいつ本気にしちゃうから。
漫画2 言いたいこと好き勝手言いやがって。
編集 すまんすまんっ。はっはっは。
漫画2 とりあえず二部、誕生日おめでとう!
編集 おう、おめでとう!
二部 ありがとう!
編集 ところでお前いくつになったんだ?
二部 年齢まで覚えてないのかよ! 29だよ。
漫画2 29かぁ! 29で売れっ子漫画家!
編集 大したもんだ! 編集のおれも鼻が高いぞー!
恋人 書屋さんも売れてるじゃないですかぁ。
漫画2 まぁな!
二部 少しは謙虚になれってー。
漫画2 ま、おまえよりは売れてないけどな!
編集 二人共頑張ってくれよー!
漫画2 そういや、誕生日当日は何してたんだ?
編集 まさか仕事じゃあるまいな?
恋人 ふふ、私と居ましたよ。
二部 あ、おい、言うなよ……。
編集 お、なんだ照れてんのか。
漫画2 羨ましいねぇ〜。
恋人 水族館とか行ってー
編集 ほうほう。
恋人 綺麗なレストランでー
漫画2 ふんふん。
恋人 それでね、プレゼント渡したらー、ふふふ。
編集 おおおっ!? 書屋君、聞き逃さないように!
漫画2 任せなさい!
恋人 泣いちゃったの。
二部 やめろぉぉ……。
漫画2 はっはっは、そうかそうか。
編集 泣いたのかおまえー。
二部 悪いかよ……。
編集 いんや、いいんじゃない?
漫画2 毎年のことだしな。
恋人 ま、そうなんですよね。
編集 あ、酒なくなったな。
漫画2 そうだね、買ってくるよ。
恋人 お願いしますー。
二部 ああ、頼んだ。
漫画2 いや、お前も行くんだよ。
二部 えー、なんで。
漫画2 一人じゃ持ちきれないだろ。
編集 任せた。
恋人 任せたっ。
二部 ……わかったよ。
漫画2 ほら、いくぞ!
●二部、漫画2ハケ。
編集 さて、追い出したところで
恋人 ええ、始めましょう!
●恋人、編集は部屋の飾りつけを始める。
編集 しかし、あいつもすげぇなー。
恋人 3000万部ですもんねぇ。
編集 最初なんて2回も打ち切りだったんだぞ。
恋人 言ってました。もう漫画家なんて辞めたくなってたとか。
編集 そうなんだよ。おれも責任感じたなぁ。
恋人 でも言ってましたよ? それでもやめなかったのはあの編集のおかげだ。って。
編集 へぇ、そうなのか。良いこと聞いちまったな。
恋人 やっぱり言ってませんでした?
編集 ああ、照れくさいんだろ。
恋人 書屋さんも良いライバルだって言ってましたよ。
編集 あいつら人気投票で勝ったり負けたりだったからな。
恋人 いい刺激だったって。
編集 それ、書屋に後で伝えちゃおうぜ。
恋人 いいですね、それ!
編集 あ、このサプライズ二部には言ってないよね?
恋人 あたりまえじゃないですかー。
編集 おれもまだ伝えてないからな、新連載決定の話。
恋人 驚くでしょうねぇ。
編集 いや、泣くかもな。嫌で。
恋人 ありそうですね。
編集 連載2つ持つことになるからな。
恋人 ひゃー、大変。
編集 この人気の勢いに乗らなきゃな。
恋人 稼ぎどきってやつですね!
編集 君もあいつといる時間が減るかもしれないが……
恋人 大丈夫です。なんとかします!
編集 なんとかか。愛想つかさないでくださいよ?
恋人 大丈夫ですってー。
編集 何分くらいたったかな。
恋人 10分経ってないくらいです。
編集 書屋に時間を稼いでくれって言っておいたけど、大丈夫かな。
恋人 コンビニ近いですからね。
編集 よし、あとはそっちの飾り付けだけだ!
恋人 はい! 出来ました!
編集 よっし! 間に合った!
恋人 あとは待つだけですね。
●ガチャガチャと音がし、漫画2、二部入り。
恋人 来ました。
二部 買ってきたぞー。って
編集、恋人、漫画2 おめでとーう!
二部 ……えっ? なに? 誕生日じゃないよな。
編集 あの垂れ幕を見てみろ!
漫画2 驚け!
二部 新連載……?
恋人 うん! 新連載が決まったんだよ!
漫画2 2つも連載掛け持ちなんて羨ましいねー。
編集 これから忙しくなるだろうが、頑張ってくれよ。
二部 や、やった……!
恋人 もっかい拍手ーーー。
●編集、恋人、漫画2は拍手。としばらく続くと、拍手はピタリと止み、照明は薄暗くなる。恋人、編集、漫画2はハケ、二部だけが舞台に。
【2】二部の部屋。
薄暗い、さっきまでの明るさは感じられない暗い空間。二部は一人でテーブルに付き、漫画を書いている。そして、ぼそぼそと独り言を言っている。
二部 も、もういいよ拍手はー。
恋人(二部) えー、だってすごいことだからー。
編集(二部) どれだけ稼げば気が済むんだこんにゃろー。
漫画2(二部) おれも負けねぇかんな。
二部 皆ありがとう、がんばるよ。
編集(二部) おう、その粋だ!
漫画2(二部) 今日はお祝いだ!
●恋人入り。
恋人 二部さん、書けましたか?
二部 朝まで飲むぞー。
恋人 またつまらない現実逃避!? はぁ、これが理想なのかねぇ。
恋人(二部) えー、朝まではキツイよー。
●恋人、置いてある原稿を拾って
恋人 なんで私があんたの恋人役なのよ! 書屋がライバル?
漫画2(二部) いや、おれは朝まで付き合ってやる。
恋人 あんたみたいな打ち切り漫画家がねぇ。ほら、あんたが原稿送ってこないから取りに来たんだよ。渡しなさい。
漫画2(編集) しかたねぇ、おれも付き合ってやるかー!
恋人 書屋に憧れてるんなら、原稿落とす事だけはしないことね。
二部 おれは売れっ子漫画家だー!
恋人 この編集役は誰なのかしら。ま、いいわ。二部! 原稿は貰って行くわよ。
●恋人ハケ。
二部 おれは売れっ子漫画家だーーー!!!!!
完