第二日曜日の儀式
第二日曜日の午後に、真っ黒い背広を着た客が。
その客は決まって男で、そしてきまって同じ台詞を口にする。
「娘さんと結婚を前提にお付き合いさせていただいてます。」
そして...
その客は月ごとに変わるのだ。
始めてお姉ちゃんが客を連れてきた日、私もお父さんも大慌てで掃除をし、とびっきりの服をきてそれを待っていた。
そしてお父さんは涙ぐんだ。
けれどもそれが2年続くともう私はすっかりやる気を無くしていた。
それどころか、(せっかくの休みなのにまた客がくる)と正直不満でいっぱいだった。
それでもお父さんは最初の月と変わらず、上等な服をきて、軽く部屋を掃除し、そして毎回目に涙をためながら話しを聞いていた。
さすがに心が痛む私も、軽く掃除を手伝ってあげた。
そうして毎月第二日曜日は、まるで決まった儀式のように客がくるようになった。
客は毎回個性豊かだった。
でぶ、細、イケ面、ハゲ?!、のっぽ、ちび、がり勉、親父、ヤンキー...。
それからスポーツマンに花屋さん。
外人をつれてきたときにはさすがにびっくりした。(しかも身長2mちょい...。)
相手はいつも真剣だった。
...それに比べてお姉ちゃんは、まるで自分の事ではないのかのようにぼーっとしていた。
なんでだろう。
なんでもっと真剣に考えないんだろう。
いつまでも親の家に住みついて...。
26のお姉ちゃんより、14歳の私のがよっぽど大人な気がした。
ある日お父さんが出張で家に帰らない日ができた。
そこで私は思い切って聞いてみることにした。
「...お姉ちゃん、結婚するきある?」
..お姉ちゃんはソーダアイスをなめながらしばらくぼーっとしていた。
そして、
「先風呂入るね。」
と言って部屋をでていった。
(ふざけんなぁ!!!)
あんまりにも腹が立った私はチョコアイスをかじりながら、(ほんとはソーダのが好きだけど、お姉ちゃんと同じものを食べたくなかった。)あてもなくテレビのリモコンをピッピピッピ変えていた。
すると長い髪をふきながらお姉ちゃんが部屋に入ってきた。
「次どーぞ」
無視。
「...。あるよ」
突然さっきの返事が返ってきたので、私はびっくりして、つい喋ってしまった。
「うそだぁ!!!」
「なかったら男つれてこないよ。」
「..だったらなんであんなやる気なさそーな顔してんの?!」
「元から元から。」
「冗談言わないでよ!!」
お姉ちゃんはふっとさみしい顔をした。
見たこともない顔だった。
「...あんたは覚えてる?...憶えてないよな。4歳じゃ。」
「..は?」
「お母さんが死んだ日。」
11年前のお姉ちゃんはあの日、塾の帰りに衝撃的なものを見てしまった。
お母さんの浮気だった。
黒い背広の男とキスをしていたそうだ。
父と母はとても仲の良い夫婦だったので、それだけに余計ショックだったのだ。
お姉ちゃんはその日からお母さんの後をつけるようになった。
お母さんは毎日違う男と会っていた。
決まって、黒い背広を着た...。
そしてある日、母さんは事故にあった。
まだ4歳の私をつれてでていたお姉ちゃんの目の前で。
5月の第二日曜のことだった。
お姉ちゃんは客をつれてくる。
決まって黒い背広を着た。
そしていつかお嫁にいく。
きっと黒以外の背広を着た。
そう、例えば父さんがよく着る、グレーのような。