風と共に去るも悔いなし
7 最後の手段
俺の腕に
君が
飛び込んでさえ
きてくれたら
俺という
たぶんこの世に
2人といない
物好きな
君の同類に
1度でいい
死んだつもりで
君が心を
預けてくれたら
俺は
どんなものからでも
君を守って
やりたかった
守ってやれる
自信があった
日々の飢餓や
アトランタの荒廃や
その他ありとあらゆる
戦争の
置き土産からも
ご両親すら
今はない
空虚なタラの
寂寥からも
そして何より
君とはそもそも
異なる世界の住人で
君なんかには
理解も許容も
逆立ちしたって
不可能な
あのアシュレ君の
幻影からも
守ってやれる
自信があった
だが現実は
猶予なかった
君は
かなわぬ恋の
さや当てに
1度と言わず
2度までも
愛してもない
哀れな男と
結婚し
何の因果か
2度が2度とも
その夫たちと
死別した
ところが君は
放っておいたら
3度目のさや当てだって
辞さないだろう
女ときてる
ためらう理由も
手持ちの時間も
俺にはもう
さほど残っちゃ
いなかったから
君が未だに
他の男を
慕っているのは
重々承知で
結婚という
一か八かの
手段に賭けた
3度目の君の
結婚相手を
買って出た
もちろん
それまで
試したことなど
1度もなかった
手段であり
君を
籠絡できるかどうか
神のみぞ知る
最後の最後の
大博打だった
君と
今日まで
暮らした中で
体だけの
嫌々ながらの
交わりだと
君にはさんざん
罵られたが
それなら
どうして
ああまで俺に
身を任せるかと
ああまで互いに
狂おしいほど
求め合うかと
問い詰めてみたい
夜もあった
覚えがないとは
言わせない
言葉が過ぎた
他意はない
最後と思って
聞き流してくれ
だが
何にせよ
皮肉だった
俺たちは
時おかず
ボニーという
宝を授ったはものの
ボニーという
宝のおかげで
俺たち2人の
互いの距離は
遠ざかることも
なかった代わりに
他ならぬ
その宝のゆえに
いびつな夫婦の
互いの距離は
父親と母親という
存在以上に
縮まることも
ありえなかった
あまりにも
愛らしく
残酷な
“かすがい”だった
そして
やんぬるかな
俺たちは
その“かすがい”を
あっけなく失った
作品名:風と共に去るも悔いなし 作家名:懐拳