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大丈夫じゃねぇよ

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息をしようと思い、指を夜空に向かって伸ばしたんだ。すると星が落ちてきた。俺が星だと知覚したはずのそれは、星ではなくて飛行機の光だったと気づくまでにきっかり30秒かかった。
「おい、いつまでベランダに居座る気だ」
「星を見飽きるまで」
「凍え死ぬぞ」
「ジャケット着てるから大丈夫」
友人の声に、チラリと視線だけおくった。今夜は冬の空気の匂いがキレイだよ。お前も試しに吸ってみな。タバコなんかよりもずっと、安上がりで病みつきになるから。冗談めかせば「鼻水出てんぞ」と頭をはたかれた。
「お前まだ明後日提出のレポート終わってねぇだろ、早くやれ」
「もう終わってる」
「いつの間に終わらせたんだ?」
「今朝、二限が始まる前に情報処理室に忍び込んで」
「……よく見つからなかったな」
「鍵当番たまたま俺だったんだよ」
「嘘つけ。どーせTゼミの奴に頼み込んで開け放ってもらったっつークチだろ」
「よくわかったな」
まじかよ。隣で肩を大げさに揺すって笑う男に眉をしかめた。これでも、やることはやってんだよ。不真面目で地に足のつかないフラフラ学生め、とかよく説教される割にはさぁ?
俺はこうして夜空を観察することが好きだった。人混みにいると、目がまわってしまうから。たまに思い出してやらなきゃならないのだ。俺は、空に「落ちつけ」と何回も励まされる。
「お前のほうこそ、課題は済んだのかよ」
「まだ確認してない」
「しとけよ」
こいつは、俺と違ってあまり空を見ないで日常をおくる人間だ。少しだけ、羨ましい。
「もう10時だぞ、早く自分の下宿に帰れ」
「寒いから嫌だ。泊まらせて」
「ベランダで良いなら」
「ひでぇ」
さぁ帰れ。言って無理やり鞄ごと外に放り出した。俺も後に続く。奴が原付に跨った姿は、上着の色のせいでよく闇に溶けた。階段の踊り場から見送る。
「じゃーな! 明日の一限忘れんなよー。ノート写させてくれる奴お前しかいねーからさー!」
「おー」
踊り場から気のない挨拶を返し、手を降る。やっと今日が終わった。
「……寒いなあ」
かじかむ手に息を吐きかける。奴の身体はバイクの轟音と共に見えなくなった。
「痛い」
どこが痛いのかわからないまま。どこに息を吐きかければいいのかもわからないまま、呟いた。息が苦しい。
もう一回、空を振り仰ぐ。星、人工衛生、飛行機、山、海の音、潮の匂い。冬の鳴き声。すべてが語りかけてくる。
「落ちつけ」
水を得たサカナは、夜空に向かって尾を振り上げた。干からびてしまわないように。
「大丈夫だ」
苦しまぎれの、声が笑う。かじかむ手の感触に気づく。まだ俺は大丈夫。
明日、朝一にレポート提出してこなきゃな。思いながら、自室に戻った。机の上に置きっぱなしにしていた携帯のランプに気づく。メールの受信を知らせていた。中身は、さっきまで隣にいたあいつからだ。
『大丈夫か』
文字の羅列を見て、返信はせずに机に放り出す。なんでこんな時ばかり勘が鋭いんだよ! バカのくせに。
大丈夫じゃねぇよ。




作品名:大丈夫じゃねぇよ 作家名:しゅのん