ついに現れてしまった…。
『神に話しかけてみてはどうですか。』
という言葉をその日一日忘れていた。
お母さんも忘れていた。
次の日もずーっと忘れて、のんきに過ごしていた。
そして忘れていたその日の夜、布団に入るとおばちゃんの言葉が鮮明に蘇った。
なぜだろう…。
犬のことを思い出して考えてたからかなぁ…。
私は考えた。
居もしないものに話しかける…、どうやって。
あっ、そうだ!!おばちゃんに、
“こんにちは~。神様いますか~。なんていいですね。”
という言葉を思い出した。
神に祈る時に、声に出して祈ってはいけない(声に出すとサタンなどの悪者に聞こえるからという理由)と前々から聞いていたから、口に出しては怖いと思い、真っ暗の中布団の中目をつぶって、私は恐る恐る心の中で声をかけてみた。
『神様~、いますか~。』
と…。
目をつぶっている視界の中は、まだ光がチカチカ残っているけど暗闇だった。
その暗闇が声をかけた後、真っ白になった。
私は目を開けずに、どういうことかと考えた。
今のはたまたまか…。
目をつぶったままの視界は白くなったままだけど、もう一度同じ質問をした。
白さがもう少し白くなったように感じた。
私は、おかしい…と困った。
今度は違う質問をしてみた。
『キリストはいますか~。』
と…。
また白くなった。
イエスの時は白くなるのか…と閃いた私は、何かノーとなる質問はないか考えた。
人は死んで復活をするとお母さんとの勉強や普段お母さんからも聞かされていた。
でも私はその意味がよく分からなかったので、考えるときはいつも答えは出なかった。
そして犬に会いたいので、犬の復活について聞いてみた。
宗教のおばちゃんは笑顔で、
“ありません。”
と答えたから、聞くのは怖かった。
同じ答えが来るかと思うと、立ち直るのにどのくらい時間がかかるのかと…。
そして私は心の声で話しかけた。
『犬に会えますか?』
と先ずは問いかけた。
視界は真っ白になった。
私の心は喜んだ。
でも、ノーとなる答えを聞いてみないと…。
『あの~、犬を返してもらえます?』
と問いかけたら、初めて視界が真っ暗闇になった。
勢いよくシャッターが閉まるような感じで、有無を言わせない威圧感が半端なかった。
やっぱり“イエスとノー”なんだと疑いながらも分かった。
もしかしたら私の脳がやっていることかもしれないので、心から信じるには無理があった。
私はそのまま続けた。
『あの~、私、犬がとっても大事で、犬と生きて行きたいんです。…出来れば…返して…もらえません?』
と言い終わる前から暗闇だった。
そういうやり取りを五分近くやりあったと思う。
何分、真っ暗の中時間の感覚がなくて…。
“犬には会える。でも今は無理。そして返してくれない。”
こんな質問のやり取りをしていて、私はだんだん腹が立って来た。
『ちょっと待てぃ~。…ずっとこっちが下から下から言っているのに、神様は何でも出来るはずなのに、たかだか犬を返してくれることが出来ないと…。ほぉ~。救う救うと言っておいて、救わない…と言うことですか?!』
と私は言い始めた。
すると視界は白か黒だったはずが、ねずみ色のような色になった。
そして私は一瞬ビビった…。
見たことがない…怖い…と。
でも、
“負けたくない!!”
と思った私は、ビビった心を立ち上がらせた。
“犬に意地でも会ってやる!!”
とその思いの方が強かった。
そして私はそこから怨念のように、
『犬に会いたい。犬に会いたい。犬を返せ。犬を返せ。』
と心の中でブツブツ言い始めた。
よくよく視界の中を見つめると、漂っている色がモクモクしている感じがした。
なんだろうとそれを捉えようとした。
私は捉えた。
雲だ!!それは曇り空で見るどんよりとした雲だった。
またよく見ると雲が動いている。
何処に動いているか…。
下向きに雲が流れている…。
そうじゃない。
私が上に突き進んでいる。それも凄い速さで。
その速さはどんどんスピードを上げて行く。
怖くなったけど、その止め方も分からない。
視界の中なのに、私自身が雲の中を突き抜けているのが分かる。
私の頭は大丈夫か…。何かにぶつからないか…。
もうどうにもこうにも出来なくなって、私はただただ怖くて、祈るようにそれが終わるのを待った。
そしたら、“スポッ。”と頭が何処かに出た。
雲の一番上だった。
ここは何処だろうとその辺を見た。
薄暗さが何処までも続いている。
誰かは分からないけど、私をここまで連れてきた人なのか…左に人がいた。
小さな子ども…?!赤ちゃん…?!
そんなことを考えるより、その人が前の方を見て欲しいという思いか、前を指さしたように感じた。
なので私は指差す方を見た。
遠くの方に人が立っている。
雲のへりくらいのところで両手を前にかざして動いている。
その人をよく見た。
『キリストだーっ!!』
と分かった。
雑誌や本に描かれてある挿絵のキリストに似てる…。
だから分かったのかもしれない。
でも遠くから見たので、(距離にして五十~百メートルくらいだと思う)顔ははっきり見えなかった。
しかも横からなのでなおさら顔は見えなかった。
私は驚いて、これは夢かもしれない…とそこで初めて目を開けた。
電気も消して真っ暗闇の中、そこは自分の家だった。
目だけ開けてもダメだと思い、体を起こして座った。
隣には彼氏もいてしっかりと寝ていた。
しかし、見えたキリストの姿は消えることはなかった。
私の頭の中というか、おでこに第三の目があるような感じで、そこの部分でしっかり見えている。
ドラゴンボールで言うと、天津飯のおでこにある目のとこらへん…かな…。
例えて言うならそれが一番分かりやすいと思う。
私は思った。
“仏教なのにキリストを見るなんて~!!私、仏じゃなくなる~!!”
と…。
私は神やキリストをそんなに信じていない。
いたいならいても構わない程度の考えだった。
悪魔や悪霊がいたら、
“サタンよ立ち去れ!!”
と心から言うようにと言われていたのを思い出した。
私はキリストに見えるその姿に心の中で、
“サタンよ立ち去れ!!”
と何度も繰り返した。
が、全く消えない…。
どうしよう、どうしようと慌てたけど、何も変わらない。
それが夢であって欲しくて、そのまま逃げるように眠りについた。
文章を読み返してみて、なんとファンタジーな世界!!と感じてしまう出来事だなぁ~
と思った。
別の人に起こっていたら私は信じていないと思う。
今でも相変わらず、半信半疑のままなのだから…。
私の性格を分かりやすく伝えるとしたら、
“石橋を叩いて渡らない。”
が一番しっくりくる。
お母さんからも納得とお墨付きだ。
そしてこれが始まりの幕開けとなる出来事だった。
作品名:ついに現れてしまった…。 作家名:きんぎょ日和