『 犬 』
と、会社の社長が運転手に言った。
「お前、俺の犬」
と、運転手がドアマンに言った。
「お前、俺の犬」
と、ドアマンが客に(心の中で)言った。
「お前、俺の犬」
と、客の男が(心の中で)妻に言った。
「あんた、私の犬」
と、妻が夫に言った。
「お前、俺の犬」
と、夫が子供に言った。
「お前も犬」
と、子供は見上げて言った。
「俺の犬」
と、夫はバイクに跨がりながら言った。
「僕は、犬じゃない」
と言ったのは、バイクだけだった。
「忘れないでね」
と、犬は言った。その庭で、首輪から逃げ出して。