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真朱@博士の角砂糖
真朱@博士の角砂糖
novelistID. 47038
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ラスト・バースデー(0)

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ひとつ、ふたつ、と咳き込んで。
今日も重たい空を見上げる。


***


「おまえ、幾つになった」
「昨日で15になったよ、じいちゃん」

マフラーが要らないくらいの、あたたかい日のことだったと思う。

「そうか。いまは、夏か」

なつ。

「おまえは、夏うまれなんだ、本当は」

僕は悲しくなって、じいちゃんの横顔から目をそらした。

「じいちゃん、わかんないよ」
「夏を見せてやりたかったんだ。おまえに」

そうだね。
僕らも、見てみたかったよ。
じいちゃんが大好きな、僕らの知らない、「夏」ってやつを。


***


8月がやってきた。
雪が降る日が減って、日毎に息がしづらくなっている気がする。今日は特に酷くて、マスクが嫌いな僕はマフラーで口元を覆うことで守る意味もない肺を守っている。着る必要のない制服。行く必要のない学校。それでも僕は、下がることのない踏切から線路に入り、積もった雪の隙間から僅かに覗くレールに沿って、東へ進む。鈍く重い朝の光。雪に吸い込まれる呼吸音。起きない大人たち。白。灰色。鉄。錆。僕の朝。僕の道。僕はこの世界が、嫌いじゃない。
右手に島のように駅が見えてきて、ホームのベンチに、ひろを見つけた。
「ひろ」
僕が声をかけるとひろは顔をあげて立ち上がり、耳から外したイヤホンをダッフルコートのポケットに仕舞いながら線路にひらりと飛び降りた。さく、っと雪が音をたてる。
「おはよう、ユイト」
「おはよう、ひろ」
僕らは並んで歩き出す。
僕らの道。僕らの、朝。
「8月だね」
ひろが言う。
「そうだね」
僕が答える。
「いよいよって感じ」
「べつに、なにも変わりやしないよ」
ひろは僕の顔を盗み見ているようだった。
「そうだね。なんにも、変わらないんだろうね」
ひろは乾いた明るい声でそう言って、僕の肩を力強く二度叩いた。
「ユイト、誕生日、なに欲しい?」
「なにも要らないよ」
僕は笑って、そう答えた。
「ダメだよそんなの」
「要らない」
「じゃあ、なにか、したいことは?」
答えられない僕。沈黙すらも、吸い込む雪。カラカラになった僕の抜け殻だけが、取り残されているかのようだ。
「したいこと…」
「考えといて」
「考えとくよ」
僕はあと19日で、17歳になる。
そして、それ以上、歳を取らない。
最後の一年が、始まろうとしている。
最後の誕生日が、やってくる。
べつに、なにが変わるわけでもないのだけれど。


***







この物語の、世界について。

約50年前から「冬しかなくなってしまった」世界。それは世界の終わりの合図だった。初めは抗っていたが、やがてすべてを受け入れ諦めてしまった大人たち。老人たちは口を揃えて若者たちにつぶやく。「おまえたちに、夏を見せてやりたい」。
出産が禁止になって、17年。23人の「最後の子供たち」は17歳になった。世界最年少の少年ユイト。彼の誕生日は、8月20日。
世界の終わりの日。それは、8月19日。世界でただひとり18歳になることができない彼の17歳の誕生日とともに、世界の、最後の一年間が始まる。
毎日が最後の世界には、今日も明日も、雪が降る。



***



ユイトを主人公に、終わりが決まった世界で生きる子たちのお話を書いていきたいです。あくまで、日常系を目指しています。笑。

よろしければ、おつきあいください。



2014/11/11 mashu