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みゅーずりん仮名
みゅーずりん仮名
novelistID. 53432
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授業訓練

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今また目の前の鉛筆が動いた。ような気がしたその時、「球橋さん」と声がした。
今待って、確かめるところ。
「球橋さん、顔を上げなさい」
仕方なく顔を上げると、山田先生がぶすっとしてこちらを睨み付けていた。

まずい、また内申点下がる。
私はとりあえず急いで、さっきの鉛筆を手に取り、黒板の文字をノートに書き写す作業に入った。先生のチョーク(筆)は早く、カッカッと音を立てながら少しだけ右上がりの行が作り上げられていく。私は、先生の特技は、黒板に文字を書くこと、と頭の中にメモをした。

もう一度、顔を上げると、黒板の文字は消えていた。
今度から、注意されないように注意するべきである。


私は今、中学2年生の女子生徒という立場で生きている。
地元の公立中学校に通いながら、これからの人生のための準備をし、老後までの人生設計を立てる練習をしているのだと思っている。という、まともなはずの人生が、先月から変わってしまった。それは、付き合っていた彼氏が引っ越してしまったのだ。悲しみと寂しさで、ぼんやりしていると、ある時、教室の窓が動いたのだった。

すーっと、たぶん5cm分くらい、右(開く方向)に窓は動き、それから風がふわっと私の首筋までやって来た。それから、目の前の鉛筆が5cm分くらい、動いたのだが、特に叫ぶほどのことでもないので黙っていた。彼氏も転校してしまって、なんだか詰まらない人生になったような気がした。なんとなく、将来は結婚するのかしら位のことは考えていたし、遠距離恋愛は無理ということで、私が一方的に振ってしまったのがいけなかったんだと思った。

でも、考えてみると、そのせいで女の友達がドン引きしたみたいなことを言い出して友達は居なくなってしまった。それで、中二病っていう言葉は中二で何か病気になるようなことが起こるってことなのかと、私は一時期真剣に考えた。少しするとまた虚しくなり、私は超能力の練習をすることにした。

五円玉に糸を張って、ゆらゆらする超能力の練習から入ったけれど、目が回って止めてしまった。眠くなることだけは確からしい。次に、テレビでやっていたスプーン曲げの練習をした。てこの原理が関係して、スプーンは曲がるんじゃないかと思った。
あとは、ぱぁーん!と窓が割れるイメージとか考えたけれど、特に何も起きなかった。
それで、人が物凄く悲しい時などだけ、何か不思議な力が外から協力するのが超能力なのではないか、と私は考えている。


どんなに悲しんでも、どんなに眠っても、楽しい日々は戻ってこない。
授業中の先生の声を、初めて耳に入れたような気持ちがして、溜息を付く。
勉強したって、私の人生が薔薇色に戻ることなんて、もう二度とない。

でも、とりあえずノートどうしよう。
学期末に提出しないといけないし、この先生だと。
鉛筆が音を立てて、床に落ちた。折れた芯が深爪並みなので、また憂鬱になった。
鉛筆削りを口実にする必要ももう無いし、今度からシャーペンにしよう、と顔を上げるといつの間にか先生は居なかった。
黒板を埋めた先生の努力を無駄にしないように、私達はノートに写し続けた。




~ おわり ~
作品名:授業訓練 作家名:みゅーずりん仮名