夢まで三歩半
どんな商売かと言うと、博士が開発した「努力加速装置」を駆使して、夢まで三歩半まで来ている人の夢を一気に叶えてしまう、と言うものだ。
なぜ、三歩半なのか、と博士に聞くと、夢まで遠いところで前進しても、前進した実感が湧かず、クレームが付きやすいから、とのことだった。
果たして、この商売は当たった。私たちは、一躍、時の人となり、忙しい毎日を送った。
しかし、私は、ある日、気付いてしまった。
「博士、ずいぶん、羽振りが良くないですか? 服にしても、アクセサリーにしても、車にしても」
「ウォッホン。私たちは、毎日忙しく働いておるのだ。羽振りだって良くなるさ。君も、ひとつ、パーっと使いたまえ」
「大変ありがたい事に、私は、共同経営者として、あなたと同じ額の収入を戴いています。しかし、あなたほどの、贅沢は、私の収入ではできません。あなたは、何を隠しているのですか?」
「ワシは、何も隠してなどおらん」
「では、隣の部屋いっぱいに並んだタンクの事を、税務署に話してもよろしいですね」
「そ、それは、……、それだけは、……」
「あのタンクの中身はなんですか?」
「分かった。白状しよう。あのタンクの中身は、客から集めた、もうすぐ夢が叶うと言うワクワクやドキドキじゃ。馬鹿な客どもは、その大切さに気付かず、すっ飛ばして、早く成功を手に入れたいと言う。一方、大金持ちの年寄りどもは、成功の味は充分知ったから、成功する前のワクワクやドキドキが欲しいと言う。『要らない』と言っている者から、要らない物を貰って、『欲しい』と言っている者に欲しい物をくれてやる。ワシゃあ、何も悪いことはしとらんぞぃ」
この爺さんを、どうするかは、さておき、私は、この仕事を辞める事にした。