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夢と少女と旅日記 第7話-4

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「それはどういう意味ですか? 夢魔はあなたを死ぬまで夢の世界に捕らえておくつもりなんですよ。それでもいいって言うんですか!?」
「まあ、とりあえず話を聞いてみましょうか、エメラルドさん。何か事情があってのことでしょうし」
 私はエメラルドさんを宥め、アイトさんの話を聞くことにしました。自分が妹だと思っていた相手が夢魔だと分かっても、それでもなお庇おうとする事情には興味がありました。
「別にたいした事情なんてない。ただ、その夢魔だって、ひとりになったら寂しいんじゃないかって思っただけだ。そいつは俺に、ふたりで一緒にいると安心するって、そう言ってくれたんだ。
 だから、俺も一緒にいてやりたいと思ったんだ。その気持ちは夢の中だけの幻想なんかじゃない。それを否定することはお前たちにはできないはずだ」
「で、でも、あなたは夢魔に騙されてるだけかもしれないんですよ!?」
「そうだとしても、騙され続けるならそれは真実だ。あいつが俺を騙しているとしても、俺はあいつを裏切ることはできない」
「どうしてそこまで……」
 エメラルドさんは信じられないといった様子で呟きました。しかし、それは一緒にいるうちに情愛が目覚めたのだということだと私は思いました。
 ひょっとしたら、本当にアイトさんと夢魔は信頼関係、――あるいはそれ以上の感情で結ばれているのかもしれない。その愛を否定することは確かにできません。
「現実世界に戻るつもりはない、そう解釈していいんですか、アイトさん?」
 私はアイトさんの気持ちがどこまで真実なのか確かめるために訊きました。
「いずれは戻るかもしれないし、一生戻らないかもしれない。ただ今だけはあいつと一緒にいさせて欲しい。今後どうするのかは俺に選ぶ権利があるだろう?」
「そうですね。分かりました。もう行きましょう、エメラルドさん。もしも今後、アイトさんが夢から覚めたいと思ったとしても、そのときは夢魔との交渉でなんとかなるでしょう。私たちは必要ありません」
「でも……」
「まあ、こんなこともありますって。本人が満足しているなら、そっとしておきましょう」
 納得しかねているエメラルドさんを連れて、私は現実世界へと戻ろうとしました。ここはアイトさんと夢魔だけのふたりだけの世界だから。私たちが邪魔しちゃいけないと思いました。
 しかし、そのときでした。押入れから人影が飛び出してきました。人影の正体は小さな女の子でした。
「ま、待ってください。私、この夢の世界を崩壊させます! もうこれ以上、お兄ちゃんを閉じ込めておくことなんてできません」
 なるほど、どこに行ったのかと思えば押入れに隠れてずっと話を聞いていたんですね。おそらくこの夢魔は私たちの接近に気付いて隠れたのでしょう。それはアイトさんの本心を聞きたかったからなのかもしれないと思いました。
「ニム……」
「ニムじゃないよ……。私は夢魔のミンティア。あなたの本当の妹ではありません」
「だけど、お前と俺はずっと兄妹として過ごしてきたんだ。その事実は変わらない」
「うん、そう言ってくれるだけで十分だよ。それでもう私は満足したから。だから、もう本当の妹のために生きてあげて。
 私には、……ううん、夢魔にはみんな家族がいないから。それがほんの少し寂しかっただけ。兄妹って、どんな関係なのかって気になっちゃっただけだから」
 俯きがちに言った彼女の表情からは寂しさが消えているようには見えませんでした。しかし、それで満足だと言うのなら、私が口を挟むことではありませんでした。
「でも、それで夢の世界を崩壊させるなんてことして大丈夫なんですか? ナイトメアに対する裏切りになるのでは?」
 ミンティアという夢魔はきっと悪い夢魔ではないのだろうと思いましたが、ナイトメアの目的には反しているだろうと思いました。ナイトメアの目的は、人間に幸せな夢を見させ続けることでしょうから。
「それは……、話をすれば分かってもらえると思います。夢の世界で生きることだけが幸せじゃないって。きっと説明すれば――」
 彼女がそう口にした、そのときでした。私はまるで空間が歪んだかのような感覚に捉われました。この世界に何か異物が混じったかのような、そんな寒気に襲われた瞬間、私は我が目を疑いました。
 言葉を紡ごうとしたままのミンティアさんの首と胴が、その、真っ二つに分かれてしまって、そこから赤い血飛沫が飛び散って――。その首が転がって、可愛らしいピンクのカーペットを朱色に染めていって――。
 ああ、夢魔にも赤い血が流れているんだ。そんな風に思う余裕もそのときはありませんでした。
「ニム!!」
 アイトさんが悲痛な表情で叫び、何度も何度もニムと呼び続けていました。そして、その叫びをかき消すかのように、あいつが現れたんです。そう、そいつこそが私が倒すべき相手――。
「いいや、分からないね。だって、現実なんてつまらないことばかりだろう?」
「ナ、ナイトメア!!」
 瞬間、私は理解しました。この幼い少年の姿をしたこいつこそが悪の元凶、ナイトメアであるということを。しかし、そいつはそんな私の考えを否定しました。
「僕はナイトメアなんかじゃないよ。むしろ逆さ。僕は人間たちの悪夢を覚ますためにやってきた日の出の使者だ。だから僕のことは、トワイライトメアと呼んで欲しいね」