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みゅーずりん仮名
みゅーずりん仮名
novelistID. 53432
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『 脱皮 』

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『 脱皮 』


私は、可愛い女性です。
それは10年前のことでした。窓の外に聞こえた靴音に怯えたあの日から、私の世界は変わり果てました。
話をするのも恐ろしく、私は店員さんをやる時と必要な時にのみ話しました。しかし、刑事さんが守ってくれるという話を聞き、その集団に心を許した時から、私の地獄は始まりました。

皆、優しく笑顔で声を掛けてくれ、やがて私の心は解けていきました。
聖なる生活は新鮮で、私と彼女たちを癒してくれ、友達の少ない私は学生時代を思い出しました。アルバイトと趣味活動の二足の草鞋は、可愛く腰の細い私にはなかなかにきつく、私は常に寒さに打ち震えていました。

バイト先では、風俗雑誌と男の笑い声が響き、店の前で人は唾を吐いて通り過ぎました。売り上げが上がるも上がらないも、店員のお姉さんに掛かっているのだと私は思い、常に私は笑顔でした。ある日、私は具合が悪くなり、どうにも体に力が入らなくなりました。その時、店員仲間の男が私にお菓子を笑いながら渡しました。

胃に激痛が走り、吐き気と悪寒の中、私は何も考えられなくなりましたが、20代の小娘に何が出来るでもなく、冷えてゆく身体と空に吸い込まれそうなほど軽くなった体で、何も気付かず毎日をただひたすら消費していました。店長の男がやって来て、笑いながら言いました。「トリカブト」。
頭は朦朧とし、鏡を覗くと目の下の濃いクマが目立つようになりました。それから、頭の中で笑い声が響くようになり、私はついに倒れました。心臓はぴくりとも動かないような気がし、私は死を望むほどの吐き気と頭痛に襲われました。

意識が戻ると激しい頭痛で気を失い、起き上がろうとしても力が入りませんでした。ふらつきながら立ち上がると、突然、脳天に針が直撃し、そこから痺れが全身を襲いました。白くなっていく視界の中で私は魚のように口を開けて息をし、渇いた舌が喉の奥に貼り付くのを感じました。窓の外から、若い男の忍び笑いが聞こえ、私は震え上がりました。何度目かに目を覚ますと、私は丸裸でした。背中がぱっくりと割れ、もう人では無くなっていました。
だから言ったのに・・・という友のような声が聞こえ、そのまま私は息絶えました。


**********************


「どうする?」「どうしよう?」
枕元で相談する声が聞こえ、それは金属音でした。続いて走馬燈が訪れ、それから叱責する声と怒鳴りつける声が聞こえてきました。頭は割れるように痛く、体は寒いのに燃えるような熱さでした。痛みと凍るような寒さと灼熱のような熱さで私は呆然としていました。吐くものも無く胃が口から出ようと暴れ、上顎と下顎は付いていたことも忘れたかのように開き、空気の中の水分を吸おうとしていました。

どうやら、それが煉獄の地獄だったと知ったのは、後のことでした。


***********************


殻から抜け出した私は、蝉になりました。後日、布団の脇に雀蜂が転がっていて、その黄色と黒の縞模様が毒々しく見え、私はそれをそこに葬ることにしました。

人生は短く、あっという間に過ぎてしまうといいます。
蝉の少女が、地上に出て飛び回る前の話です。脱皮のその後の話は、またいつか。



   ~ お終い ~



作品名:『 脱皮 』 作家名:みゅーずりん仮名