私の読む「宇津保物語」 蔵開きー3ー
昨夜は私の伝言の返事を待つ間に。周囲から聞こえてきましたのは、貴女のことを忌々しく酷いことを言うので、気持ちが塞いでしまいました。
私自身のことはともかくとして、若い子供や大勢の供人、童が聞いていましたので、大変に恥ずかしい思いを致しました。
本当に暫く宮中から離れて、あの人達の気持ちが落ち着くようにしてあげたらよい」
と言う書状を他人が横取りして春宮に告げたので、
「私に見せなさい」
と、読まれて、父親の正頼を気の毒に思うが、「退出」と言う言葉が無性に腹が立って、文を手の中に揉んでしまい、放り投げて、
「妃達の女房が勝手にすることまで私は責任がとれない。正頼にとって面目が立たないと思うのなら、御覧にならなければよい」
と、伝言になったので、馬の頭の親純はこのいきさつを、真に品が悪いことで困ったことだと思って、宮中から退出するとすぐに正頼に、事の次第を話す。
正頼と子供達は聞いて騒ぎ出す。北方の大宮は、
「さも大事件でもあるかのように子供全員を引き連れて、どうして良くない消息などをして、こういう事件を起こされるのでしょうね。貴方はともかく子供達の将来のために悪い影響がないか困ってしまいます」
仲忠がこの事を聞いて。
「だからこそ申し上げたのに、藤壺は退出の許可が下りないだろうと。とても慎重な正頼様が本当にお気の毒なことだな」
そうして今日は、京官(つかさめし)の日で、左右の大臣、忠雅・正頼、左大将兼雅を帝は夜に宮中に召される。春宮は、その日の夕方に藤壺とともに宮中に参内し、いつもの通り控えている。
次の日の朝京官が終わってみんなが騒ぐ。大勢の者が任官した。
衛門督(えもんのかみ)に正頼の長男忠純(ただずみ)、右近少将に親純(ちかずみ)、内蔵頭(うちのかみ)兼左衛門尉(じょう)にあこ君(正頼十二番目の行純)と任官した。しかし春宮に対してお礼の言葉をなさらなかった。春宮は帝の側におられるので、慶びの殿上人達は、仲忠も参内してきて、春宮は仲忠に対して嫌なことは言ったが、本気ではないので仲忠を召して話をする。仲忠は、
「先日、帝の命で間近で文書を朗読させていただきましたが、他のことが出来ないためご挨拶せずに終わりました。
ひたすら文を読む状態が続くようでしたが、今年の最後の月はないようでございます。仏名が過ぎる頃からとの仰せでしたが、用事がありまして出来ませんでした。年が明けましたら続けるつもりにしております」
と、春宮に話をして退出した。
作品名:私の読む「宇津保物語」 蔵開きー3ー 作家名:陽高慈雨