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私の読む「宇津保物語」 蔵開きー2-

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正頼
「朱雀院の修理が終ったらしいので、そういうこともあるでしょう」

 仲忠
「この三日の間、春宮も殿上されておられました。久しぶりに拝顔をしまして、清らかになられたと感じました」

 正頼
「我が国の王としては、勿体ないほどのお方です」

 仲忠
「先日来、私は大変に辛い仕事を仰せつけられました。春宮は心憎いほど高貴で、同席された五の宮は大変に派手な方で、何かを見つけようと思いになった様子でそこらをご覧になる。

 文書をあれこれと訓読する役を成し遂げるのは困難でした。それでも、貴重なお品を賜りました」

 正頼
「何を頂いたのですか」

「石帯で御座います」

「それではお見せ願いたい」

 取りに行かせて雑仕が持ってきたのを見ると、石帯は袋に入れて螺鈿の箱に入っている。正頼は取り出して見ると、貞信公秘蔵の石帯で大変尊い物である。正頼は驚いて、

 正頼

「これはまた世に比類のなき物である。この石帯を頂くほどのことを仲忠は帝にして差し上げたということである。大変な仕事をしたのだな。

 これは、藤原忠平、小一条太政大臣、小野宮と呼ばれた方の御帯である。この帯が原因で色々な事件が起こりました。

 この帯のことで讒訴されて、法師となった橘千蔭の一子忠こそ。忠こそが失踪したことで、千蔭大臣は職を辞して小野に籠もり、

『この帯を譲る者はいませんから』

 と、考えて嵯峨院に差し上げた、という曰くのある帯である。嵯峨院が帝の御時、春宮であった朱雀帝にお渡しになった。

 朱雀帝はこれを尊い宝とされました。貴重な帯を沢山お持ちであるが、この帯ほど大切になさったものは有りませんでしょう」

 仲忠
「この帯を頂いたのは藤壺のおかげです。
 
 帝への訓読の際に、春宮が藤壺に文を送られ、そのご返事をご覧になって大層深くお考えになり、そのご様子を見た私が、変だと思っている内に読み違えまして、それを帝はお笑いになったのを勿体ないこと、と震えながら訓読でおりました。そのときに帝が、

『文書の朗読の礼としてなにがよいだろう』

 などと仰せになってこれを頂戴いたしました。詩句などをお読みしたぐらいで、大変な禄を頂けるものなのですね」

 正頼

「詩句を訓読で、大変貴重な禄を頂く例を作った人は偉い者ですね」

 仁寿殿女御は、自分や宮達の前に膳を並べさせた。仲忠の前にはまだ膳はない、正頼は酒を少し飲まれた頃に、源中納言涼の北方今宮が、子供が生まれそうで大層苦しんでおられるという知らせが来て、大騒ぎとなる。正頼は

「内侍典を早くあちらに行くようにして、良く心得た者でなければ困るであろう」

「お昼頃にお召しがありましたので、内侍典は参上しています」

 正頼

「立ったままでお見舞いをしよう」

 産屋は不浄であるから座れない。産屋に向かった。
 仲忠はお見舞いをしようと思うが、気分が悪くて訪問しなかった。こうしている内にお生まれになったという知らせがきた。男児出産と言うことである。

 仁寿殿女御は一の宮に、
「髪は乾きましたか、早く中殿の大殿(仲忠)の許へ行きなさい」

 と、言われて奥に入って仕舞われたので、仲忠が屏風を押し除けて見てみると、一の宮は濃い紫の袿に、黄色の勝った鮮やかな赤の織物の細長を上に着て、髪洗いのための白い衣を掛けて、髪は少し湿って四尺の厨子から流れ落ちて、蛍貝で磨いたようにきらきらと輝いている。小さなお膳を前にして湯漬けを、果物を、食べておられた。

 仲忠
「何と見苦しい場所で、あちらで乾かしなさい。一人では体が落ち着かなくて居にくい」

 と言うや抱きかかえて降ろして、そのまま中殿に向かい、帳台に入り込み共に伏せた。仲忠は宮に、

「どうして文を差し上げましたのに、内裏にも、ここ中殿にも、ご返事頂けないのですか」

 と、仲忠はこの三日ほどの自分の帝への役目を物語られる。一の宮に宮はたが言ったことなどを話すと、宮は、

「宮中と同じような気持ちで、宮はたは、ここでも遠慮が無くあちらに(仁寿殿の局)も始終いましたから、見もしたでしょう。

 宮はたは、心も顔も優れていると思いましたが、何でも逃さずに見ているのが憎い」

 仲忠
「ところで、父の祐純は」

「まさか私の所へは訪ねてきませんは」

「静かにお話を、貴女の伯父様方は、みんな心やりのない方ばかりだ。仲純一人が亡くなってしまった。誰でしょうね、大層物思いに沈んでおられるようですが」

 一の宮は笑って、
「おかしな濡れ衣ですね。逆ではありませんか、仲忠様ではありませんか」

「然し、帝の御妹君ではないでしょう。他の宮達は貴女よりも小さい」

 などと語らいつつ二人は睦まれるので、右近の乳母は不機嫌になる。

「だから言ったでは有りませんか、折角綺麗になさった髪が、もう、ぐちゃぐちゃ、明日も髪洗い(泔)をしなくてはなりますまい。気の向くままのお床ですから。本当に整えにくいお髪ですから」

 と言うと、仁寿殿女御は、

「あまり仲忠殿をお責めにならないで、帝の御前で夜昼お勤めになられたのですから、お休みになりたいのでしょう、お静かになさいませ。何も髪のことなどを心配なさらなくても、人がご覧になればなんとかするでしょう。気にすることはありませんよ」

 仲忠と一の宮の二人は翌日の昼になるまで帳台から現れなかった。食事の膳を持参して女房達は食器
を音高く立てながら並べて用意をするが、二人はその音を聞いたようにもない。みんなが困っているので中務の女房が、
「お食事で御座います」
 と、申し上げると、

「大変に気分が悪いし、まだ眠いから、小さな膳にに分けてください」

 と、仲忠が言うと、少し小さい盆に少し分けたお菜果物などを差し上げる。

 仲忠はまず一の宮に少し食べさせて、お下がりを仲忠が食する。そうして二人また床についた。
 次の日まで帳台から出なかった。内侍督から文がある。

「どうして久しく消息を下さらないのか。前々貴方が言っておられたことを、そういう時にと準備をしました。今日こそが大変によい日だと思います、お出でなさい」

 と、あり、読んだ仲忠は、
「本当にそんなことを言った覚えがある。困ったな、どうあっても母の許に参ろう」

 と、思って、
「只今参上をしまして申し上げますから、文には書きません」

 と、母上に返事をした。

「こんな事をしておられない、また他から声がかかるかもしれない」

 と、言ってお出かけになる。

 仲忠は母の内侍督が住む三条殿に行くと、里では犬宮の産着の品々を揃えてあった。産婦一の宮への贈り物も揃えてあって、正頼の前に出しても引けを取らないほどの物が準備されていた。

 州浜の湧き水の傍らに、鶴が立っているその許に黄金の毛彫りで葦手書きに、

 今宵より流るゝ水のおのが世に
      幾度すむと見まく鶴の子
(今夜から鶴の子が絶え間なく流れる水に幾代住むのを、老いた私達は見ることが出来るのだろう)

 と、歌があり。様々の贈り物を揃えてお見せになって、食事を出される。父の兼雅も、趣向を凝らした北方の贈り物を面白いとご覧になる。仲忠は、