なりきり少年
雨上がりの戦場
雨が上がった。開戦だ。
アメリカ軍はまだ向うで息を潜めているだろうが、それもすぐ終わるだろう。それならば、今のうちに伝えなければならないことがある。
「お前たち、相手は手練れだ。油断するな」
口々に、了解だのわかりましただの言うみんなをみて、俺は安堵した。そして、無意識のうちに緊張していたことに気付く。
これから起こることは、ゲームでも漫画でもないんだ……!
始めの一手は、アメリカからだった。突如銃声が響き渡る。それを合図に、俺たちはそれぞれ行動を開始した。
俺らは中央で、ほかはそれぞれ左右に分かれてアメリカを討つ作戦だ。その為には、俺が目立って相手の気を引かなければ。
俺は立ち上がる。
「アメリカよ! 日米安保条約はどうなった!」
アメリカ軍がこちらに気付く。そして、銃口を向けてきた。慌てて俺は陰に隠れる。頭の上を、銃弾が土煙を上げて抜けて行った。
「貴様ら日本は、アメリカの犬アメリカの犬と馬鹿にされていながらしっぽを振っていた! みじめな最後だな!」
畜生、馬鹿にして……。
俺は再び立ち上がって、銃を撃ちながら少し行ったところの陰に隠れる。俺の撃った弾で一人、アメリカ兵を倒した。
よし、ここまでは順調だ。
そう思った瞬間、横から何かが飛び出してきた。
「待ってくれ! 撃つな!」
アメリカ兵だった。両手をあげてこちらを見ている。俺は銃を構えながら言った。
「なんのつもりだ。なぜこちら側に来た」
アメリカ兵は撃たれないと解って、少し安堵した表情をした後、説明した。
「アメリカはヤバい。すぐに戦いをやめるか、逃げるかした方がいい。ここは俺が受け持つから、早く逃げろ」
「だが、俺にも仲間がいる。そいつらをおいていけない」
「俺がなんとかする! 確かに俺はアメリカ兵だが、生まれは日本なんだ。信じてくれ」
アメリカ兵の目はこちらをまっすぐに見ていた。こちらが思わずたじろぐほどだ。すぐ後ろにいる相棒に目で合図する。
――こいつは信用できそうか?
――たぶん、大丈夫でしょう。
「わかった、信じよう。本当に頼めるんだな?」
「ありがとうよ、大丈夫、かならず助けるさ」
その言葉を信じて、俺は銃を納めて逃げようとした。だが、突然銃声が響いて、俺は動けなくなった。
見てみると、さっきまでたっていた相棒が俺のすぐ後ろに倒れていた。
――まさか。
アメリカ兵は銃を片手ににんまりと笑い、こういった。
「いくらなんでも、ちょろすぎんじゃないの? 日本は」
逆上した俺は銃でそいつを撃とうとしたが、アメリカ兵はさながら忍者のように目の前から消えてしまった。
「おい、大丈夫か!」
相棒は雨上がりの泥にまみれて黒くなっていた。そして、お腹からは赤いものが流れていた。
「よかった、あなたは生きてる」
そういって、相棒は息絶えた。
そこで、俺の中の何かが切れた。俺は音もなく立ち上がると銃を持って戦場のど真ん中を突っ走りだした。
アメリカ兵が俺を狙うが、俺の行動が意外過ぎる所為かちっとも当たらない。動揺しているのだ。
しかし、そんなことがいつまでも続くわけもなく、俺は足に銃弾を喰らって転んでしまった。
そこに、アメリカ兵が集まる。その中にはさっきのアメリカ兵もいた。
「へへへ、馬鹿なやつだなお前」
そういって、アメリカ兵は俺の頭に銃口を突きつけた。
俺が最後に見たのは、薄汚い戦場に花のように咲いた虹だった。