超絶勇者ブレイブマン その15
たとえ、あとで裏切られるとしても思い出を作っておくのは悪いことではない。そう前向きに捉えることにした。
「では、せいぎくんの転校を記念して、かんぱーい!」
「かんぱーい。……ってお茶とかだけどね」
可恋は愛のボケに冷静に突っ込みつつも、一緒に乾杯をした。勇気も一応そのノリに合わせて、水筒の蓋で乾杯することにした。
「それにしても、愛ちゃんにはびっくりしたよ。転校生をいきなり昼食に誘うなんて」
「えー、別におかしなことじゃないと思うけど。クラスメイトだもん」
「正義、……くんも驚いたでしょ? この子、たまにこういうことするから、嫌だったらはっきり言ってやって」
「別に。まあ、たまには馴れ合うのもいいんじゃねえの? あと、男にくん付けされても気持ち悪いから呼び捨てでいい」
逆に言えば、女に呼び捨てにされるのは嫌だということだ。故に女性を見下す発言ということになるのだが、偉ぶった男の心とはそういうものである。
「……それよりさ、佐藤愛とかいう平凡な名前だっけ? お前、なんで俺のこと誘ったの?」
「え? だから、さっき言ったじゃん。校内のこととかよく分からないと思って。それにクラスメイトなんだし」
「いや、……もういい。調子狂うな」
話をしても無駄だ。この女は本気でそう思っているんだ。俺があれだけ、――しかも現在進行形で、偉そうな態度を取っているにもかかわらず、クラスメイトだから仲良くするのは当然だと。
底抜けの馬鹿なのか、あるいは底抜けの善人なのか。いずれにせよ、正義が今まで出会ってきた中にはいなかった人種だ。
「さて、もうみんな昼食は食べ終わったな。いよいよ、アレのお披露目の時間だぜ」
みんながお弁当を食べ終わるのを見計らって、希望が言った。愛もそれに「おー」と応えた。
「アレ? やけにでかい弁当の包みかと思ってたけど、なんだよそれ?」
青い布に包まれたそれは、どう見ても弁当の大きさには見えなかったが、それ以上にそんなものを学校に持ってくる奴がいるという方が信じられなかった。もちろんそれとはガンプラのことである。
「じゃじゃーん、見ろよ。デスティニーガンダムだぜ! 塗装までやってたから2週間以上かかっちまったぜ」
「きゃーきゃー、デスティニー! もうひとつの運命という名のRPG!」
「それ、別のデスティニーだよ、愛ちゃん」
「うんうん、やっぱりかっこいいねえ、ガンダムは!」
勇気の突っ込みも耳に入らないほど興奮した愛の隣でぼそりと呟く声がした。
「なんだ、ガンプラか。その程度のもの作るのに2週間もかかってるのかよ。だっせえな」
正義のその水を差すような言葉に希望はかちんときた。希望は自分の努力を否定されるのが一番嫌いであった。
「あ? さっきからなんなんだ、お前は。喧嘩売ってんのか? 表に出ろよ」
「正直な感想を言っただけだろ」
「というか、屋上って表じゃないのかなあ。それより、この腕の関節部とか、組み立てるの苦労したでしょ? いいなあ、私もコスプレ衣装だけじゃなくて、こういうのも作ってみようかなあ」
希望が凄んだことで一瞬空気が張り詰めたが、愛があまりにも能天気過ぎる発言をしたので、とりあえずその場は収まった。あるいはそれは場を和ませるためだったのかもしれないが、本心は彼女自身にしか分からない。
しかし、それにしても希望と正義の相性が悪いのは、もはや明白であった。8割方は正義が悪いのだが。
作品名:超絶勇者ブレイブマン その15 作家名:タチバナ