新撰組異聞__時代 【前編】
第2話 京の都へ
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「土方さんっ!」
総司が、蒼白な顔で振り返る。
イギリス公使館が、一気に炎に包まれる。
「総司、これは単なる火事じゃねぇ」
「まさか、攘夷派?」
「そんなとこだろうな」
厳しく睨む先で、数人の浪士が駆けてくる。
「そこをどけ」
「そうはいきません。あなた方のした事を見逃す事はできません!」
「総司、ぬかるなよ」
「土方さんこそ」
お互い抜刀して、修羅場になった。
同時刻___とある邸内に二人の男がいた。
「清河どの、例の計画進んでますやろな?」
「はい、幕府も漸く…」
「それはそれは。帝も御喜びになりますやろ。都も最近、物騒や」
「御前さま」
「理解ってる。そなたの事はちゃんと帝の御耳に入れておく」
能面で顔を隠し、『御前さま』と呼ばれる男は、禁中(※ 御所内)の要職にあると清河に云っていた。
「よろしくお願いします」
「しかし、今日はよう乾燥した空気や。火など出たら大変やろ」
意味深な言葉を、清河は聞き逃した。
自分にとって重要でなかったのと、丁度重なった鹿威しの音に掻き消され、聞き取れなかった為に。
作品名:新撰組異聞__時代 【前編】 作家名:斑鳩青藍