僕らと、夢と。
ギターケースが、日に日に重くなっていく。
ライトで煌々と照らされたステージは、昨日と少しも変わらず届かない。
むしろ、ギターの重さと比例してますます遠ざかる。
それでも、その声だけは。歌声だけは希望いっぱいに。
空回りになっていることなんて気付かずに。
少年は歌い続ける。
自分の事で精一杯な早歩きの人々に届くように。
そして、たまにふらりと現れる、少年と正反対の観客、スーパースターに向けて。
ギターケースが、日に日に重くなっていく。
歌う事が義務化していく。
後方に迫る影に怯え、望まないヒットを刻み続ける。
今を失うのが怖いがために。
青年は歌い続ける。
何万というファンのために。
そして、最前列から濁った目でこちらを見上げる、
青年と正反対の観客、名も無きミュージシャンに向けて。
「ライブ、良かったよ。」
「どうも。君は随分歌が上手くなったね。」
「ありがとう。」
「でも、やっぱり僕らは何も変わらない。」
「あぁ、そうさ。おかげで、お互い空虚な部分もたくさん見てきた。」
「うん。君だって、僕だって。」
「ねえ。それでも君は、僕のような頃に戻りたい?」
「逆に聞くよ。僕のようになるのがわかってて、それでもステージに憧れるかい?」
「わからない。」
「うん、わからない。」
明日のギターケースは、今日より重たいだろうか。