悠里17歳
7 QUASAR RECORDS
神戸の中心、でも路地裏にある小さなライブハウス「QUASAR」は今から10年ほど昔、ここを拠点として活動していたバンドが一応の成功を収めて以来、時代のシーンを代表するバンドやミュージシャンを輩出してきた。私の兄と、現在はソロで活動しているキングMMこと宮浦基彦、そして私の担任である千賀郁哉先生の三人で組んだバンド「ギミック」もこのライブハウスから誕生した。大地震で一時は壊滅の危機に瀕したこともあったが、不屈の闘志で力強く生き残って来た。
現在では設備も整い、インディ・レーベルであるが「QUASAR RECORDS」という会社が併設され、ここでレコーディングもできる。ギミックが出した最初で最後のアルバム『strawdoll』もここでレコーディングされた。
いつものように私とサラ、晴乃の三人は土曜の午後ここに集まって練習に勤しんでいた。
ただし今日はちょっと雰囲気が違う。MMの計らいでいつもとは違う、一つ大きなスタジオで練習している事ではなく、録音の本番でもない。私たち三人の眼前にはMMだけでなく、かつてのギミックのメンバー、千賀先生もいて二人並んで座り、脚を組み腕を組んでこちらを厳しい目で見ているからだ。
今や神戸の伝説の高校生バンドとなったギミック。元メンバーの二人が揃っているだけでも珍しいことなのに、私やサラはともかくとして、彼らに強く影響を受けたという晴乃なんかは緊張してベースの音がどことなく固い。MMは相変わらずいつもの調子と言いたいところだが彼が言う「怖い先輩」がいる事でちょっと真剣な様子が垣間見えるし、先生の方も普段着であることも手伝い、学校で見る表情とは少し違う。気持ち私も縮こまっているのだろうか――。
何もせずに後悔するくらいなら
何かをして後悔した方がいい