漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品
9―1 【壺】
【壺】、この字体、丸く腹がふくれ、口をすぼんだ「ツボ」の形だとか。
この【壺】という字、もう一つ漢字がある。それは中身が微妙に違う――【壷】
印刷標準字体の「亞」タイプと、非印刷字体の「亜」タイプとなっている。
これって、どちらが正しいのだろうか?
調べてみると、どちらも正解だとか。
そんな【壺】、その中には『壺中(こちゅう)の天』と言う別天地があるとのこと。
そこへ潜り込めば、酒が一杯飲めて、この世の憂さが忘れられるそうな。
昔、費長房(ひちょうぼう)という役人がいた。
ある日、楼上から眺めていたら、薬売りの老人が店先にある壺の中に跳び込むのを見てしまった。
興味が湧き、帰ってきた老人に頼み、一緒に壺の中に入れてもらう。
するとその中は、立派な建物が建ち並び、美酒佳肴(びしゅかこう)が一杯ある別天地だった。
費長房は老人とともに、それはそれは楽しい思いをした……そうな。
行ってみた〜い!
ということで、近場を探してみた。だが、そんな【壺】はどこにもない。
あるのは「骨壺」くらいなもの。
そんな【壺】に、もし飛び込んだら、閻魔大王の思う【壺】……ということになるのだ。
そして大王は嬉しそうに仰るだろう。「間抜けがど【壺】に嵌まりよった」と。
作品名:漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品 作家名:鮎風 遊