漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品
6―6 【桃】
【桃】は、「木」と「兆」からなる。
「兆」は左右に離れた様を表した字。よって、【桃】は左右に割れる実がなる木、「もも」だとか。
また、「もも」の語源は多くある。
本当の実で「真実」(まみ)、赤い実で「燃実」(もえみ)、多く出来るので「百」(もも)がある。
そして傑作は、表面に毛が多いので「毛毛」(もうもう)。
これらから「もも」と呼ばれるようになったとか。ホント、驚き、桃の木、山椒の木だ。
で、思わず、【桃】が一杯の「すもももももももものうち」、そんなことを早口に言ってみたりして。
だが、ここで言う「すもも」は「李」と書く。
「李」と【桃】はどこが違うのか?
どちらもバラ目バラ科。その次の属で、「李」はサクラ属で、【桃】はモモ属ということらしい。
なるほど、この程度のことなら、「すもももももももものうち」と語られて当然だ。
他に【桃】に絡む話しは山ほどある。
その中でも、物事を成し遂げるには時間がかかるというたとえがある。
桃栗三年 柿八年
梅はすいすい 十三年
発芽から結実まで、桃や栗は三年、柿は八年。【桃】は随分と短い。
しかし、柿は八年もかかるのかと感心してる場合じゃない。そのたとえに続きがあるのだ。
梨は大バカ 十八年
りんごニコニコ 二十五年
女房の不作は 六十年
亭主の不作は……これまた 一生
まあここまでくると、物事の成就は絶望的になってくる。しかし、万葉集にこんな歌があった。
「向(むか)つ峰(を)に 立てる【桃】の木 ならめやと 人ぞささやく 汝(な)が心ゆめ」
これは切ない恋の歌、それを意訳すると。
向こうに見える山の【桃】の木、三年が経っても実がならない。そんなことを人が囁いているわ。そんなことに、あなたは心を迷わさせないで下さいね。私たちの恋はきっと実りますから。
確かに、そう願う通りだ。
しかし、「桃栗三年」は辛抱できても……、少なくとも「柿八年」では、恋の結実をして欲しいものだ。
作品名:漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品 作家名:鮎風 遊