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漢字一文字の旅  紫式部市民文化特別賞受賞作品

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28―6 【菜】

 【菜】、元の字の意味は手で木の実を摘み取ることだとか。そんな【菜】で、すぐに思い付くのが「菜の花」。

 菜の花や 月は東に 日は西に
 与謝蕪村は270年ほど前にこう詠んだ。菜の花は晩春の季語であり、おぼろ月が東に上がった夕暮れ時の情景だろう。
 そしてそこから連想するのが「菜種油」。セイヨウアブラナから採取される食用油で、かっては灯火としても使われていた。
 こんな植物油、世界の生産量は次のような順位になっている。

  一位 パーム油
  二位 大豆油
  三位 菜種油
  四位 ひまわり油

 菜種油は堂々の第三位。その菜種油の六割が日本で作られているとか。春ともなれば、いかに菜の花が黄一色で日本中に咲いているかということだ。

 そして菜の花は、お浸しに和え物、炒め物に汁物と食して美味しい。
 食卓の一品、春の旬の味だ。菜の花は日本の暮らしになくてはならない。
 そして唱歌の朧月夜。

  【菜】の花畠に 入日薄れ
  見わたす山の端(は) 霞ふかし
  春風そよふく 空を見れば
  夕月かかりて にほひ淡し

 【菜】という漢字、こうして日本人の心まで癒やしてくれている。