漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品
18―1 【口】
【口】は象形文字。明らかに「くち」の形だ。
そして、その中に入れるものは食べ物だけではない。漢字もいろいろと入る。
囚、因、回、団、困、囲、図、固、国などがある。
人を捕まえて、【口】の囲いに入れて「囚人」となる。
「国」は元の字は「國」。城壁の形の【口】、それを戈(ほこ)で守る「或」が入り、「國」となったそうな。
「おとり」は、鳥を捕らえる時、誘い寄せるために使う同類の鳥のこと。招き鳥(おきとり)が音変化したものだが、漢字では、囲いの【口】の中に入れて「化」かすから、「囮」……だって。まさに絶妙だ。
また「回」は、【口】の中に【口】がある。大変なことだと思うが、淵で水がぐるぐるまわる形だとか。
だが、この字にはかなわないだろう。
「幸」を【口】の中に入れた「圉」いう字がある。
(ひとや)と読み、「幸」を一人囲い込み、幸せ一杯かと思いきや、意味はなんと――罪人を閉じ込める「牢屋」のこと。
史上最強に皮肉な漢字なのだ。
とにかく【口】は鼻の下にある【口】だが、他に城壁になったり、囲いになったり、水の渦までにもなって、そして牢屋にもなる。
その【口】の中にいろいろな漢字を入れて、洒落まで持たす『大口』なのだ。
作品名:漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品 作家名:鮎風 遊