ブラックデザイナーの独り言
レイヤーについて
法的な仕事の話ばかりしてもつまらないので、レイヤーについての話をしよう。
レイヤーというのは、重ねの効く透明なシート、と思ってもらえると、同業でない人も分かりやすいと思う。こういったものが、Photoshopをはじめとする大概のグラフィックソフトには搭載されている。クリエイターはデータ上に作品を作る際、このシートの上に絵や文字を描いたり、置いたりする。(余談だが、写真でも絵と呼ぶ場合がある。写真と言うより言いやすいしね)
置かれた絵には、レイヤー効果、というものがつけられて、ふちに白い線を描けたり、上に色を置けたり、様々なことができる。また、これらを下のシートに、どのような効果で影響させるか、も設定ができる。下のシートの範囲だけに上のシートの効果を反映することも可能だ。そろそろ文字だと何言ってんだお前、みたいな感じになると思うが、同業類職でない以上はまったく無意味なのでこのくらいにしよう。
このレイヤー、一枚のカンバスの中で、無限に増やせるのである。
つまり、世に出回っているデザインの大半は、そうしたレイヤーが統合された結果にできあがっているもの、ということだ。この発想は実に画期的で、昭和の時代にはセンセーショナルきわまりなかったのだろうなと思う。昔は手描きだ。アクリルガッシュとカラーインクだ。一度できてしまえば修正が効かない。故に、昔のデザイン職はまさに職人で、何もかもが専門だった。
今の安月給は、このPhotoshop、あるいはIllustratorが生まれてしまって、世に販売されてしまったから起こった現象なのかもしれないなぁ、と思う。誰でも簡単にセンスがあればできるレベルにまで、専門技術が便利化したのだ。もちろん制作は格段にラクになったけれど、これでよかったのかなぁとは思う。
話をレイヤーに戻そう。
無限に増やせるこのレイヤー、整理の仕方でだいぶ性格が出るのである。
レイヤーにはいくつかの整理方法がある。
まず、統合すること。次に、グループ化すること。さらに、リンクすること。最近だとベクトルスマート化すること。一応非表示にすることも入れておこう。
グループ化の機能ができてからPhotoshopはさらに進化したなぁと漠然と思う。これがなければひたすらスクロールスクロールして、対象のレイヤーを探さなければいけない状態になる。新規レイヤーを作ってみたら、レイヤー900を超えているなんてざらである。
みなさんは900枚もある書類に眼を通すことができるだろうか。私はごめんこうむりたい。
統合は言わずもがな、シートを新たな一枚のシートにまとめて、一枚絵にしてしまうことだ。メリットはデータが軽くなること。デメリットは編集できなくなること。統合してしまった部分に修正が入ったら発狂ものだが、データが軽くなるので動作は快適になる。
グループ化はフォルダにまとめてしまうこと。編集可能のままだが、重たいのには変わりない。ただ、レイヤーパレットでの見た目は格段に整理される。三階層まで可能。
リンクは、指定したレイヤーを指定した配置で一緒に動かせるようになること。あまり私は使わないが、一時的な編集には重宝する。
ベクトルスマート化。これは説明するとめんどくさいので省略。非表示は単純に見えなくなくすることだ。
経験上、レイヤーの整理をしないデザイナーは、総じて仕事が遅いデザイナーである。ただ、その中には稀に、非常にクオリティの高いものを出すデザイナーも存在するので、一概に整理ができないことが仕事のできないデザイナーだとは言いきれない。
ただ、レイヤーの整理をしないデザイナーは、効率が悪い。それは個人にとってもだが、会社にとっても非常に効率が悪い。
その人の仕事を他の人間が編集しようとしたとき、一目見て「どこになにがあるのか」がわからないからだ。
あるプロジェクトの会議書類があるとする。テーマは社内清掃について。問題提起が最初にあり、次にどうするべきかの提案があり、さらに具体案が書かれており、その際の参考資料や予算がある。結果としてどうなるだろうか、という結果予測もついてくる。大概の会社は、これを順序立てて整理していく。
が、デザイナーはこういう整理ができない人が圧倒的に多い。……ように思う。
無駄にイラレとフォトショを併用している人もそんな感じである。見た目にこだわるあまり、そういった効率性、修正が来たときの対応予測などが、一切合切抜け落ちているのだ。見た目さえよけりゃそれでいいならば手描きでやれ、と個人的には思うのだが、そうもいかないこの世の中である。
挙げ句の果てに画面上に何の効果ももたらしていないレイヤーを残しておくやつもいる。これはサーバの容量を食うだけでなく、データ修正中も非常に厄介で、重たいことこの上ない。
「整理だなんだ言ってたら、クオリティの高いものなんかできない!」という人がいれば、個人的には「未熟者!」と一喝したいところだ。整理ができていようができていまいが、クオリティの高いものは高いのだ。いろいろな意味で量産型デザイナーやっている人間は、効率化という言葉を手放してはいけない。ただでさえ単価が安いのだ、手間隙かけすぎて納期遅れるくらいなら、手際よく処理しろと言いたくなるのである。
あなたの回りにもいないだろうか、整理整頓ができていないがために、自分が何をしているのか、あるいは相手が何をしたいのか、まったく読めない人間が。たくさん書類や企画やらをたてて、整理もせずに「俺やった……!」と感慨に浸っているやつが。
要領の良さにも性格があるが、この性格では許されない範囲、というものがある。デザイナーはそれが顕著に作品として出てきてしまう。それは、最終的な見た目ではなく、水面下と言うべきデータだ。
デザイナーの敵はクライアントや営業だけではない。同業だってそうなのである。
作品名:ブラックデザイナーの独り言 作家名:りめ